① 2004年4月~2017年1月までのthe Japanese Adverse Drug Event Report (JADER) databaseによると薬剤性腎障害の原因薬物として最多は?
A.ロキソプロフェン
B.バラシクロビル
C.シスプラチン

正解:B
バラシクロビルとアシクロビルを加えると1000件以上で断トツの1位。ロキソプロフェン+ジクロフェナクで約500件で2つ併せるとNSAIDsは2位(表1

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② グレープフルーツを食べても問題ないとされている薬は?
A.イブルチニブ
B.アムロジピン
C.シンバスタチン

正解:B
アムロジピンは論文でグレープフルーツジュース(GFJ)によってわずかに血中濃度が上昇したという報告はあるが、一般的にグレープフルーツの相互作用を防ぐための選択肢としてアムロジピンを推奨されている。イブルチニブのFは絶食時2.9%、食前7.6%と非常に低いのでGFJの併用によって2.1倍になる。シンバスタチンもFが5%のみなので、阻害力の強いイトラコナゾールの併用で活性体のAUCが19倍になり(図1)GFJでも血中シンバスタチン濃度は10倍になる。

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③ 「イトラコナゾールは投与量を増やすとすごく効く」と言われるが、AUC依存的な抗真菌作用を示す以外で考えられる理由は?
A.フェニトイン型の非線形の薬物動態を示すから
B.バルプロ酸型の非線形薬物動態を示すから
C.カルバマゼピン型の非線形薬物動態を示すから

正解:A
図2)、投与量を増やすと確かによく効くが、血中濃度が非線形的に上昇するため、よく効くが、当然副作用も起こりやすくなる。

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④ 腎機能低下患者では特に重篤な低血糖を起こしうる薬はどれか?
A.アマリール
B.グリミクロン
C.グルファスト

正解:A
アマリール(グリメピリド)だけでなくグリベンクラミド、グリメピリド、クロルプロパミド、アセトヘキ サミド、ナテグリニドには低血糖作用を示す活性代謝物があるため(表2)、腎機能が低下するほど蓄積しやすくなる。グリミクロン(グリクラジド)には活性代謝物がない。

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⑤ 心移植患者があるサプリメント摂取開始3週間後に重篤な拒絶反応。原因のサプリは何か?
A.うつ症状に効くサプリ
B.認知機能を悪化させないサプリ
C.血液をサラサラにするサプ

正解:A
うつ症状に効くサプリのセントジョンズワート(西洋オトギリソウ)。これらはドイツ語圏では医療用医薬品に指定されており、日本ではファンケルやDHCなどからコンビニでも売られている。図3は心移植後に3週間セントジョンズワートを摂取したため、血中シクロスポリン濃度が低下し重篤な拒絶反応が起こった2症例である。リファンピシン、フェニトインなどのように代謝酵素を誘導するため、併用される薬を効かなくさせることがあり、ピルを飲み、セントジョンズワートを摂取していた女性が妊娠し堕胎した症例報告もある。

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⑥ ステロイド抵抗性膜性腎症患者にシクロスポリンを投与すると筋肉痛が起こった。禁忌になっている薬は薬剤師がすべてチェック済み。何が投与されていた患者?
A.リピトール
B.ベザトールSR
C.ローコール

正解:A
スタチンを取り込むトランスポータ有機アニオントランスポータをシクロスポリンが阻害するため、スタチンが肝に取り込まれなくなって血中濃度が上昇する。ストロングスタチンのクレストール、リバロはシクロスポリンと併用禁忌になっているが、この相互作用が分かる以前に発売されたリピトールは禁忌になっていないが、シクロスポリンによってCYP3A4も阻害されるため、CYP3A4基質のリピトールの相互作用はクレストール、リバロよりも強力である。ローコールはこのトランスポータの基質にならない(表3)。

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⑦ 日本のガイドラインで推奨されている75歳以上のCKDステージG4患者に最適な降圧薬は?
A.Ca拮抗薬
B.ACE阻害薬
C.ARB

正解:A
エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018では「75歳以上の高齢者のCKDステージG4,5では,脱水や虚血に対する脆弱性を考慮し,Ca拮抗薬を推奨する」と記載されている。腎血漿流量を低下させる利尿薬、糸球体内圧を下げるRAS阻害薬はうまく使えば腎保護作用を発揮できるが、容易に腎虚血になりやすい高齢者には、使いにくい「両刃の剣」となる。

⑧ コルヒチンを飲んでいる人がある種の抗菌薬を併用すると10%以上の人が死亡した。この原因抗菌薬は?
A.クロラムフェニコール
B.ST合剤
C.クラリスロマイシン

正解:C
コルヒチンはCYP3A4基質であるとともに排泄トランスポータのP糖タンパク質の基質であり、クラリスロマイシンはCYP3A4、P糖タンパク質の阻害薬である。コルヒチンの中毒作用は下痢、脱毛、顆粒球減少症であり、コルヒチン服用者にクラリスロマイシンが併用されると汎血球減少症によって10%以上の人が死亡したという報告がある(表4)。

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⑨ フェニトイン300mg/日を飲んでいる人にバルプロ酸1200mg/日を併用したらフェニトインの蛋白結合率が通常90%だったのが75%に低下した。臨床症状として何が起こるか?
A.フェニトインの効果が増大する
B.フェニトインの副作用が起こる
C.何も起こらない

正解:C
フェニトイン血中総濃度は低下し、フェニトイン遊離型分率は上昇するが遊離型濃度は不変のため、臨床症状は変化しない(図4,5

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⑩ バンコマイシン散を投与時に併用して効果があるプロバイオティクスは?
A.ビオフェルミンR
B.ラックビーR
C.ミヤBM

正解:C
ミヤBM(活性酪酸菌: Clostridium butyricum)は芽胞を形成するため、胃酸にも消毒薬にも抗菌薬にも死滅せず、空腸に達してから発芽する。いわゆる耐性乳酸菌はキノロン系抗菌薬やバンコマイシンに殺菌される。

⑪ ハルシオン錠2.5mgを1錠服用患者がリファンピシンが併用されてから不眠になった。ハルシオン錠2.5mgを何錠のませれば以前と同じように効くようになる?
A.2錠
B.8錠
C.20錠

正解:C
図6.に示すようにプラセボ群に比しリファンピシン併用群ではAUCが5%に低下するため、20錠に増量すれば同じ効果が得られるが、こんなことはしない。

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⑫ サインバルタが高度腎障害患者に禁忌である理由は?
A.腎排泄性薬物だから
B.腎排泄ではないが血中濃度が2倍になるから
C.活性代謝物が蓄積するから

正解:B
サインバルタの尿中未変化体排泄率は0%だが、なぜか高度腎障害患者では血中濃度が2倍になる。おそらく尿毒素が蓄積して薬物代謝酵素あるいは、排泄トランスポータの翻訳後修飾などによる発現量低下、昨日の低下などが原因と予測される。(図7

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⑬ エディロールを服用して急性腎障害になった。その主原因は?
A.多尿による脱水から腎前性腎障害
B.尿細管の石灰化
C.リン酸Caの結晶形成による腎後性腎障害

正解:A
BCも考えられうるが、主原因は高カルシウム血症による尿濃縮障害から多尿、脱水から腎前性腎障害を起こすことによる。

⑭ メロペネムの感受性は高いのに1.0gを1日2回30分点滴投与しているのに効きにくい。どうすれば効くようになる?
A.1回0.5gを1日4回1時間点滴で投与する
B.1回2.0gを1日2回30分点滴投与に増量する
C.1回3.0gを1日1回30分点滴投与する

正解:A
セフェム系、カルバペネム系などのβラクタム系抗菌薬の殺菌作用はtime above MICと相関する(図8)。つまり殺菌力を上げようとすればMIC以上の濃度をできるだけ長時間持続させることが重要。一時的に濃度を高くしても(図9左)、投与量を多くしてもあまり効果は上がらない(図9右)。

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医師に出題してみたいファクトフルネス~思い込みはないですか?~

 ファクトフルネスはハンス・ロスリング氏の著書である「ファクトフルネス」という本で、東南アジアやアフリカと聞くだけで貧困にあえいでいる国、人々ときめつける人が多い。しかも賢い人ほど思い込みに陥りやすいのですが、世の中は時代とともに良くなっているのです。ニュースや、マスコミは一部の悲惨な部分を映し出しているので、それに惑わされている方が多いらしいのです。「ファクトフル(FACTFULL)」というのは、「事実に満ちている」という意味ですが、実際には当たり前のことをまだまだ理解していない人が多いのです。
 薬剤師だったら当たり前にわかることが、医師にはわかんないことっていうのも世の中にいっぱいあるってことを知っていきたいと思いますし、医師と薬剤師の違いを知っていただきたい。そして薬剤師がどんな分野に可能性を持っているかを理解していただきたいため、医師向けの14問のクイズを用意しました。薬剤師の専門分野を医師に問うのは場違いで、大変失礼ではありますが、薬剤師にはこんな特技、15017715_s.jpg特殊能力があるということを知っていただければ、よりよい協力関係、チーム医療が成立するものと思います。ただし同じ薬剤師でも個人差はありますが、薬剤師だったら全問正解できますよね?
 さて、医師の先生で全問正解できたとしたら本当にすごい先生だなと感心してしまいます。先生方は何問正解できますでしょうか?ではいきましょう。



解答詳細は明日掲載させていただきます。

 

 

薬剤師っていらなくない?


 初の薬剤師が主役のテレビドラマであるアレクサングシンデレラで「薬剤師っていらなくない?」ということばが話題になりました。「薬剤師なんていらない?なんでいらないの?薬剤師は絶対に必要なんだよ!だって処方箋を書く医師は薬物動態や相互作用、薬の化学構造や物性、製剤学などをほとんど習っていないんだよ。併用することによって血中濃度が1/20になって薬が効かなくなったり、20倍以上の血中濃度になったりするとき、それを防ぐ薬の組み合わせを提言できて、配合変化が起こるのを防ぎ、副作用の起こらないよう服薬指導するには薬剤師が絶対に必要なんだ。患者さんが使っている薬の有効性・安全性を担保するために薬剤師が監査し、疑義紹介しなければならないんだ。40118462_s.jpg多くの患者さんが薬物療法によって病気を治療している。薬剤師は患者さんの薬の安全性を守る最後の砦なんだ。」これはこのドラマが始まる前から、僕が熊本大学薬学部で繰り返し学生たちに熱く語ってきたことです。でも「薬物動態学」の大好きな薬剤師や、それに関わる難解な計算式を得意とする薬剤師はあまり多くない(筆者も含めて)のが実態かもしれません。実際、処方箋監査をするのに「薬物動態学の知識って必要?」と思っている薬剤師も多いのではないでしょうか?
 「薬剤師は薬の専門家」、幅広い薬の知識を持っているのは薬剤師自身も薬剤師以外も自覚していることでしょう。この薬の特性は何で表されるの?たとえば「どれくらいたてば効き始めて、どれくらい効果が持続するの?」「体の中に薬が溜まり続けて害になることはないの?」「いつ飲んだら一番効果的?」「同じ成分なのに飲み薬と注射薬と投与量が同じこともあるし、飲み薬の方が注射薬よりもうんと量が多いことがあるけど副作用は心配ないの?」「同じ量をのんでも人によって副作用が起きたり、効かなかったりすることがあるのはなぜ?」これらは動態を知っている薬剤師にとってはおそらく容易に答えられる質問内容ですが、医師には少し難しいかもしれません。
 37606545_s.jpgもしも現在の医薬分業が数十年以上前の院内処方に戻り、薬剤師不在のクリニックで建前上は医師(実際には事務員)が調剤して薬を渡すようになれば、訴訟沙汰になるような薬の有害反応が日常茶飯事のように起ってしまうかもしれません。おぉ~、怖い。

 

 


 2021年 4月、これから実務実習に行こうとする薬学科5年生の薬物処方学試験 記述問題『あなたにとって薬剤師とはどのような役割を担った職種だと考えますか?また将来どのように変わっていくべきだと思いますか?』より。これは2015年のブログでも紹介しましたが、薬物処方学のこの試験問題は60点に満たなかった人を救済するために、10点の下駄をはかせる目的で毎年、出題しています。今年は非常勤講師としてですが、平田が感動し、なるほどと思った7名の、素晴らしい考えをご紹介いたします。みんな実務実習、頑張って!


A君:医師と対等に意見交換できる薬剤師
 私の将来なりたい職である病院薬剤師を例に挙げるが、薬剤師は「薬物治療」に関しては全責任を負い、患者にとって最善で安全な治療を提供する役割を担う職種であると考える。
 また、この役割を担う上で、薬剤師としてのあり方として変わらなくてはいけないと思う点が2点程ある。
 自分は身近な所に現役の看護師として働いている人がいるのだが、よく話を聞くのが「薬剤師さんの回答が自信なさげであいまいだからいつも不安」という事についてであり、私はこの話を聞いて「薬剤師は他職種から薬に関しては信頼を置かれるべき存在なのだから、単に知識を蓄えるだけでなく、堂々とした態度でコミュニケーションをとる事も等しく重要なのだ」と感じた。
 また、2点目に、現場の声を聞いていると、やはり薬物治療に関しても医師の方が立場が上、といった印象があるらしく、将来、薬の特性に関して医師以上に知識をもつ薬剤師が、医師と対等に意見交換できるような環境を作らなければいけないと強く感じた。

平田の感想:堂々とした態度でコミュニケーションをとれるようになる秘訣は、20210701_1.png僕の場合は「なりたい薬剤師像」を心の中で作って、それを演じ切ることでした。僕の場合は「やさしくて物知りの薬剤師」が理想像でした。それとやっぱり医療人すべてに共通することですが、患者さんを好きになり、薬に興味を持つことだと思っています。夢中になって実習を乗り切っていけば、いい薬剤師さんになれると思います。頑張って!


Bさん:高齢者に寄り添える薬剤師
 薬剤師は、これからの超高齢社会における人と医療をつなげる役割を担った職種だと考えます。高齢者の方は多くの方が薬をのみながら生活していらっしゃるので、そういった方ができるかぎり自立した、自分らしい生活を長く送れるように、また、体調が悪くてなかなか病院へ行けない方のサポートができるように働きかけることができればいいなと思います。また、高齢者が多く暮らしていらっしゃる地方においては、そういった方々のコミュニティーの場、薬剤師も交えた情報交換の場として薬局や薬局が主催するイベントが活用されればいいなと考えております。その中で、やはり、処方権が完全に委託されたままでは薬剤師の活動の場が広がらないので、薬剤師が可能な処方変更のラインを認定薬剤師制度などを活用して変えていければいいのかなと考えています。

平田の感想:コミュニティーの場で身近な存在の薬剤師ってすばらしい。相談しにくいことがこの人なら相談できる、という人になりたいですよね。でも話は聞くけど、何もできないのは寂しい。よりよい医療に貢献できるようになるには薬剤師1人1人が力を付けて責任ある仕事をこなしていくこと。そうすればこの仕事は薬剤師に任せようという機運が生まれるんじゃないかしら。


Cさん:安全性を守り、処方権を持てるように
 薬は病気を治療できる便利なものである反面、使い方を少しでもあやまると患者さんの健康を害してしまうおそれのあるとても怖いものである。薬剤師は、患者さんの薬のリスクから守るセーフティーネットのような役割を担った職業であると考えた。
 現在、薬剤師は医師や歯科医師の処方せんがないと患者さんに医療用薬品を渡すことができないが、将来的には、薬剤師も処方することができ、重症でない限りは薬局に直接来てもらって薬を渡せるようなことができるようになったら良いと思った。


Dさん:専門性から地域まで幅広い薬剤師の活躍に期待
 薬剤師は薬の専門家であるのはもちろん、公衆衛生や地域の健康づくりをも支える一員である。医療機関ではチーム医療の一員として薬の適正使用に努めなければならない。平田先生の授業で学んだように、例えば抗菌薬適正使用も医療現場では課題となっている。そのようなケースで、薬学を学んできた私たちは抗菌薬適正使用のサポートチームに介入していくのはもちろん重要だ。さらに現在、がん治療が外来で行われることも多くなってきた。外来で治療を進めていく患者の薬の安全と、心の不安の解消のために薬剤師が寄り添っていくことも重要だ。このように、抗菌薬の適正使用や外来がん薬物療法など、様々な面での課題を知り、専門、認定薬剤師として、患者により安全な薬物療法を提供できるようにするのも必要ではないだろうか。また、今後も続いていく高齢社会で、病院完結型医療ではなく地域完結型医療が求められている。このような状況でもますます薬剤師が必要とされていくと考えられている。病院で処方せんをもらって来局した患者の薬歴だけでなく、地域住民のセルフメディケーションのサポート、健康情報の共有において役割を担える。さらにかかりつけ薬剤師の普及などから住民の安否確認にもつながる可能性はある。医療スタッフ、また地域住民のかかわりを築きながら薬剤師としての課題はますます見つかるだろうと考えている。


E君:AIにはできない薬のプロ
 薬剤師は薬のプロフェッショナルとして、医療に携わり、患者に寄り添っていく役割があると思う。現在、AI化が進んでいく未来には多くの職業がAIによってまかなわれていくことが予想される。薬剤師の仕事もAIによって行われ、薬の調剤などを無人で行われるようになるかもしれないというものをTVの番組で拝見した。しかし、私は、薬剤師の仕事はAIに代わっていいものではないと考える。AIでは、患者の心情、背景、本音をすべて正確に感じとることは、不可能であると思う。40118462_s.jpg薬のプロフェッショナルである薬剤師だからこそ、人間がやるからこそ、患者に寄り添い、ひとりひとりにあった医療を行うことができると思う。そのため薬剤師はAI化されるべきではないと考える。
 最後に、薬剤師の給料は、もう少し高くても良いと思う。病院内での医師との差がより縮まればよいと思う。


Fさん:医療従事者とscientist の側面を持職業 
 私は薬剤師とは身近な医療の相談相手であると考える。もちろん患者やその家族の健康に関する相談や現在服用中の薬に関する情報を提供するという意味もあるが、最近流行する新型コロナウイルスについて正しい知識を提供するといった務めもあると考える。
 また、薬剤師は医療従事者としての側面と、さらにscientistとしての側面、この2つをもつ職種であると考える。この強みを生かしながら、経験と知識を目の前の患者だけでなく、地域全体に活かせるような薬剤師になりたい。


Gさん:病院薬剤師の給与は低すぎる 
 医者と同様に患者さんの治療法を考える大事な存在だと思います。特に救急では、原因がわからない方が多く、時間もないので、長年の経験や知識が必要になると感じました。しかしながら、そのような責任のある職種であるのにも関わらず、日本では薬剤師の給料は低く(とくに病院)、価値が認められていないように感じます。私たちのような新しい世代の薬剤師が病院内で価値を認めさせ、今後の医療界を支えていく必要があると強く感じています。


 透析看護雑誌「透析ケア」などで有名なMCメディカ出版よりナース向けの「透析患者の薬剤ポケットブック改訂3版」が出版されました。第2版から約5年ぶりの改訂です。この5年間で新たに経口の腎性貧血治療薬が登場しましたし、高カリウム血症治療薬や、下剤も新たなものが続々と登場して、多様化しています。薬剤はすべて最新情報で、ページ数は増やさず薬剤を入れ替えてコンパクトにしました。薬の特徴を簡潔に写真つきで解説しており、その場でサッと調べられます。看護師、薬剤師はもちろん、透析患者にかかわるすべてのスタッフが、透析患者への正しい薬の使い方を学ぶことができます。熊本の仲間の先生方との共著ですが、透析に関わる最初の92ページは平田が書いています。ぜひ本書を参考にしていただき,透析患者さんに薬の正しい使い方を啓発・指導していただければ幸いです。


エクササイズ
 熊本大学時代にはとても忙しくて土日もほとんど出勤していた。好きなことをやっていたので苦痛では感じなかったが、ジムに行く時間的余裕がなかった。2006年からの最初の2年半は単身赴任で大学から歩いて1分の宿舎に住んでおり、昼食は学生と1000kcal以上あるヘビーなランチを食べに行き、歩行距離も少なく、空腹時血糖値が105になって、体力の衰えを感じた。そのため宿舎を出て少し離れたマンションを借りて、できるだけ歩くように心がけ、97240663_s.jpg嫁が熊本に来てくれて食事内容も劇的に良くなった。60歳になってから無理やり時間をとってジム通いを始めた。金曜日の夜などは朝まで大学で夢中になって仕事していたので、明け方5時ころ24時間開いているAnytimeというジムに通ってトレッドミルで10~20km歩いたり走ったりしていた。僕は歩いているとき、運転をしているとき、ジムでエクササイズをしているときなど、いつもイヤホンをして英会話を聴いたり、教育系オーディオブックを聴いたりして自分を高めようと心掛けている。無駄な時間がとっても惜しいと思うからだ。そして毎年2月には熊本マラソンに出場するため、いつもは67kgある体重を63kgまで落として、第2回熊本マラソンから5回連続出場して完走できたが、マラソン後はすぐにリバウンドして67kgになっていた。これは2月のバレンタインデーのチョコレートによるリバウンドかもしれない。
 神戸に来てからは規則正しい生活になって、ほぼ毎日ジムに行けるのと前述の16:8ダイエットで、体重を63kgに維持しているが、筋肉量を増やしたまま、体脂肪は20%未満になるよう保っている。それとライフスパンではよくないとされているプロテインはジムでは摂取している。そのためいつもBUNが高く、医師から「脱水じゃない?」と疑われるが、これはプロテイン摂取のせいだ。超健康体になった僕の場合は、後期高齢者になるまでは太らない105603155_s.jpgようにしようと気を付けて、1か月に少なくとも30万歩は歩くようにしている。そして最近はやりの高強度インターバルトレーニング(HIIT)。これは僕にとっては最近聞いた言葉だけど、DMM英会話で先生たちに聞いてみると、フィリピンやヨーロッパ、アフリカ、中米など世界中の英会話の先生たちはすでに知っていた。ということは世界中で流行しているトレーニングで、前回のライフスパンでも高齢者ほどHIITが老化予防に効果的で運動するほどテロメアが長くなるらしい。HIITでの適正な心拍数は208-0.7×Ageで計算できる。ちなみに僕は66歳なので、208-0.7×Age=208-0.7×66=162/分になるように30~40秒運動+15~20秒の休息を数セットやっている。死にそうになるきついトレーニングなので、健康な若い人にしかおすすめはしない。

ジムとサウナ
 これについては以前にブログで書いたけど、熊大を定年退職後に神戸に引っ越し、熊本で週1回は行っていた大好きなチムジルバンとサウナ付き大浴場のある「あがんなっせ」に行けないのはとても残念なのだが、六甲道に住んでよかったのは、近くにサウナやジャグジーなど完備の大浴場のついたジム「セントラルスポーツ」があることだ。ほぼ毎日、1時間のウォーキング・ランニングと10~30分の筋トレの後はサウナを楽しむ。サウナと冷水浴の繰り返しは「整う」という快感(この後、いいフレーズが頭の中にあふれるように出てきて論文がいくらでも書ける)を与えてくれるし、寒冷刺激は体に適度なストレスをかけることによって、エピゲノムが混乱しないため老化防止にもとてもいいのだ。

サプリ
 ミヤBMは家族みんな、ビタミンD(活性型ではなくネイティブのもの)は熊本で透析患者の骨ミネラル代謝異常の専門家、田中元子先生に「飲んだ方がいいですよ」と言われて以来、夫婦でずっと飲んでいる。僕は結構、他人に影響されやすいのです。もしも活性型ビタミンを処方されている人がいたら、カルシウムの併用は高カルシウム血症から多尿から脱水になって腎機能が悪化しやすいので気をつけて!


 以前にブログで「健康を保つためにやっていること 前編後編」を書きましたが、前回の「ライフスパン」という名著の影響を受けて、今、僕がやっている健康法についてまとめました。

16:8ダイエット
 僕も66歳の高齢者で、一般的に加齢に伴って筋肉量が減るために、ダイエットはしない方が良いといわれているが、僕は20年前から糖質制限食を続け、5年前からジム通いをはじめ、体組成計による体内年齢は常に50歳以下だ。20210607.pngとても元気でウエイトトレーニングを定期的にやっているので、筋肉量は増加傾向のため、さらなる健康追及のために内臓脂肪は減らしたい。食事はずっと以前から炭水化物・脂肪をできるだけ摂らないで食物繊維の豊富な野菜がメインで鶏肉、魚、卵、乳製品などを加えた食事を心がけている。朝食は自家製ヨーグルトと果物、野菜ジュースがメインだったが、David A Sinclair教授の「ライフスパン 老いなき世界」を読んでから、朝食を抜いて遅い昼食をとる「16:8ダイエット」を実施、おかげで楽に減量でき体脂肪率が下がった。16:8ダイエットは、例えば20時に夕食を摂ると、朝食は抜いて16時間後の12時に昼食を食べ、8時間以内に夕食を摂る。最初は空腹を感じたが慣れるとなんでもなくなり、昼食をたっぷり摂ると夕食時に食欲がなくて何も食べないこともあり、かなり体重が減る。僕は甘いもの、和菓子やチョコレート、アイスクリームが大好物だが、これをたくさん食べると当然、太って、体脂肪が増えていたが「16:8ダイエット」実施後は太らなくなった。今は170cm、63kg、BMI 22で体表面積1.73m2の標準体型を保っている。10055856_s.jpg
でもあまり我慢しすぎるのもよくないので、気晴らしに週に1度は外食で好物のとんかつ(熊本の勝烈亭は最高においしい)、カツカレーなどの肉類やうどん、ラーメン、餃子(神戸市灘区にはおいしい餃子屋が結構ある)など好きなものを食べる。本来、「16:8ダイエット」ダイエットや軽い飢餓状態は細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったり、細胞質内に侵入した病原微生物を排除したりすることで生体の恒常性を維持するためのシステムの「オートファジー」を活性化することに意味があるらしい。


 僕はその後、英検準1級を取得したものの、 実は英字新聞も満足に読めないし英語の小説も読めない、映画やテレビドラマも字幕がなければ完全には理解できない。プロ野球のヒーローインタビューで元大リーガーたちの話す英語は80%分からない(関係ないけど嫁の故郷、鹿児島の高齢者同士の会話は95%分からない)。149703552_s.jpgラミレス前横浜監督の英語はネイティブスピーカーじゃなかったのでほぼ100%分かったけど。だけど医学論文だけは辞書なし、もちろんgoogle翻訳なしで理解できるし、国際学会に行っても、スライドがあれば日本語と全く変わらず理解できるようになったし、英語で質問もディスカッションもできるようになった。普通の英米人と話していても医学英語に関しては僕の方がはるかによく知っていた。これは半年のオレゴン州立大学での生活で伸びたのではない、まさに23歳の時にやった毎日、論文を訳してきた経験によるのだ。
 今回、伝えたいことは、どうやったら英語が上達するのかではなく、どうやったら、自分に自信を持てるかという1例を若い人たちに知ってもらいたかった。そして、なにかを極めるためには努力じゃない。だって努力はつらいもの。つらいことは続けられないし、無理したら心を病んじゃう。ドキドキワクワクしながら夢中になってやることは自分を信じられないくらいに変えてくれる。でもちょっとだけ好きになる努力は必要だ。だから患者さんを好きになれない人、薬に全く興味のわかない薬剤師は早く転職したほうがいいとも思っている。いつも僕がいつも言うように「オタク」は天才に勝てるのだ。まさに23歳の時、夢中になってやっていれば、頭が多少悪くても何かができるんだ、ということをつかんだターニングポイントだったと思う。今井眞一郎教授の講演を聞いてこの時のころのことを思い出した。

後日談
 結局、「中分子量物質が尿毒素」というのは完全な眉唾だった。今は誰もこの研究に関わっていない。僕はこの学会発表をするまでに、元気な人ほど中分子量物質濃度が高いという気がしてならなかった。はその当時、僕の作ったスライドだが、20210617_1.pngピークa~cあたりが中分子領域といわれていたが、Bёrgstromに言わせると、これが高くなると尿毒症性の心不全で死亡しやすいと言っていたが、僕の測定結果では元気な人ほど高かった。BёrgstromやManの言っていることと全く異なったデータしか得られなかった。中分子量物質の正体が何だったのかよくわからない。ひょっとしたら下条文武先生が発見したβ2ミクログロブリンだったのかもしれないが、元気な人ほど食べているから、低分子蛋白やペプチド(微量のホルモンではなく栄養素としてのペプチド)などの濃度が高かっただけではないかと僕は思っている。この研究は1回の学会発表で終わったけれど、終えて良かったと思っている。なおこのころから10数年後、MacのPCが医学界を席巻するまでのスライドはすべて手書きだ。20210617_3.png20210617_2.pngロットリングペンと製図用テンプレートを使って描いていた。すべて英文なのは格好をつけているんじゃない。薬剤師の研究に病院がお金を出してくれないから、自分で一番安上がりのスライドを作らなくっちゃいけない。ドクターはラフデザインを描くだけで天満橋にあるスライド屋さんが作ってくれ、病院がその代金の数万円を立て替えてくれていたが、薬剤師の僕たちは和文発表なのに、すべて英語で書かれたスライドを使わざるを得なかった、昭和の時代のことである。


 長寿遺伝子のトップ研究者のワシントン大学の今井眞一郎教授が母校の慶応大学で講演した時のこと。学生の「オリジナリティのある研究テーマやビジョンをどうやって探せばいいのですか」という質問に対し、「1日1報、原著論文(アブストラクトではだめ)を全文読んでください。まずは1か月続けてください。1か月するとその分野で何が起こっているかが分かってくる。2か月続けるとばらばらだった知識が結合してくる(知識をブラッシュアップできる)。それを続けて3か月、つまり90報読むと、ほぼ何がこの分野で分かっていて、ここが分かっていないこと、これから何をやるべきかが分かってくる。」と答えていらっしゃり、大いに納得した。40024209_s.jpg
 大阪薬科大学の4年間は、高校までまったく自信がなく、女子と話すなんてできないくらいシャイだった僕が、いろんな先輩や友人のおかげで、人間的に成長できた素晴らしい4年間だったと思っている。でも悪い先輩たちから薬理と薬品製造と衛生以外は出席しなくてもいいというのを信じ込み、授業には全くついてゆけず、ほぼ最低の成績だった。卒業して研究志向は高いが、当時30床くらいしかなかった小さな透析をやっている個人病院の白鷺病院に入職し、1年後に「尿毒素としての中分子量物質」のテーマに興味を持った。透析で小分子は抜けるが中分子量物質は抜けが悪い。だから中分子量物質が蓄積して尿毒症を悪化させるというものだった。
 学生時代はダメ学生だったので、目指した薬理学教室には成績が悪くて入れえず、仕方なく僕がお世話になっていた若い先生のもとで合成をやっていた。ただし申し訳ないことに合成には全く興味なく、合成反応後のクロマトによる結晶の精製に手間取り、先生方や同僚に迷惑ばかりかけていた。卒業発表でも質問に立ち往生しボロボロになりかっこ悪かった。でもこの時にやっていたクロマトグラフィーの技術が役に立ったのだ。透析患者の尿毒症体液成分を用いてSephadex G15を用いたゲルクロマトグラフィーを用いて分析するのだが、卒業して初めてクロマトの原理について1から学んだ。そして分析に取り組み、初の学会発表の機会を得た。分子量物質仮説についてはスウェーデンのBёrgstrom、フランスのManらがそれらの学説をけん引していた。関連する文献は英語論文ばかりで20くらいしかなかったが、医師から鋭い質問が来るかもしれないので、卒業発表のトラウマがあったためとても怖くなった。
 この20の文献をメーカーに頼んで取り寄せ、それを毎日1つずつ読もうとした。その当時、一番多くの専門語の載っていたリーダーズ英和辞典を1万円も出して買って、論文に書かれているほとんどの単語の意味が分からないから、論文が鉛筆で書いた日本語訳だらけになった。20200623_1.png夜12時になっても訳せなかったが、次の日の仕事があるので、2時か3時までには病院の寮に帰るしかなかった。でもこれは全く苦痛ではなかった。1~2本読んだ時点で僕は白鷺病院で一番、中分子量物質について知っているという喜びを感じることができたから。誰も知らないことを知るって、楽しいじゃない?5本読めば大阪で一番の物知りに、20本読めば知識の上では日本のトップに立てるのだ。誰とディベートしても、たとえ東大の教授に突っ込まれた質問をしても勝てるんだという自信が持てる、だめ薬剤師としては初めてのワクワクドキドキする体験だった。1本の論文を全訳するのに深夜まで病院に残って2~3日かかっていたのが、そのうち1日1本訳せるようになり、辞書を引く回数が減った。20本を訳し終えた時には、1日2本読めるようになり、ほとんど辞書が要らなくなった。これは自分にとって大きな驚きだった。そして学会発表の時にも自信を持てたので、何が来ても、どんなえらい医師が質問しても怖くなかった。学生時代の卒業研究発表会とは違って、ワクワクしながら学会発表できたことを覚えている。


3.適度な飢餓と運動が老化を防止し、若返る?
 老化は避けられないものではなく、「病気」なのだ。病気だから薬や食事などで直すことができる。ただし一つの病気を治したからといって、別の病気で死ぬ確率が低くなるわけではない。私達に必要なのは、病気の全てを取り払うこと、つまり身体の衰えをもたらし、病的異常を伴う「老化という病気」を撲滅することである。老化を避けるための内容は今までにも言われてきた欧米化した食事ではなく低カロリーで食物繊維の多いものを摂り、運動などの生活習慣の改善だけでなく、薬物療法やサプリメントの摂取も深く関わっている。では具体的に何をすればいいのかについて要約してみよう。生体に適度なストレスがかかると、長寿遺伝子が始動する。例えば絶食、低タンパク質の食事、運動、高温や低温にさらすなどだ。これは加齢に関係なく、いつから始めてもよい。

(1)食べる量を減らすこと
 肥満が健康に良くないことは様々な研究で分かっていることで、カロリー制限が長寿につながることは、周知の事実だ。具体的には

・野菜をたくさん摂取し、肉を口にするのはなるべく避ける。植物性タンパク質は良いが動物性タンパクは良くないからだ。プロテインにはアミノ酸が豊富でmTOR(mammalian target of rapamycin )を活性化して、筋肉量を増やす。ちなみにmTORを阻害すると、がん細胞の増殖や血管新生を阻害することができる。mTORの活性化は長寿にとってはデメリットになるが、後期高齢者でサルコペニアになるのを避けるには、運動したときに肉やプロテインを積極的に摂取するのはメリットになると思う(平田の考察)。著者も運動の時には肉を食べると言っている。

・mTORを働かせないようにすると、オートファジー(古くなったたんぱく質を再利用する働き)が促進する。オートファジーによるたんぱく質の再利用は健康寿命を延ばす。カロリー制限が老化防止に良いはこの作用による。肉や乳製品の摂取量を減らしても同じく、オートファジー活性化効果がある。

・1日どれか1食を抜くか、少なくともごく少量に抑えるようにする。カロリー制限のため週2日の断食とか、朝食を抜くのもよい。月に5日カロリーを制限する。間欠的断食でも効果は同じか高い。

朝食を抜いて遅い昼食をとるもの(「16:8ダイエット」:例えば20時に夕食を摂ると、朝食は抜いて16時間後の12時に昼食を食べ、8時間以内に夕食を摂る)や、週に2日はカロリーを75%に減らすもの(「5:2ダイエット」)がある。もう少し挑戦したいなら、週に2~3日は食物をいっさい摂らない(「イート・ストップ・イート法」)のもいい。あるいは、健康問題の権威であるピーター・アッティア医師が実践しているように、毎月丸々1週間を空腹で過ごしてもいい。週に2日はカロリーを75%に減らすのもよいし、アミノ酸を少し制限するのもよい。ただし今井教授はMNMには昼間に高くなるというサーカディアンリズムがあるので、朝、しっかり食べて、その後に空腹時間を長く摂るようにしているらしい。

(2)運動療法
 サバイバル回路を作動させることが有効ならば、それは食事以外の活動、例えば運動でも構わない。運動が遺伝子のスイッチを入れ、私達を細胞レベルで若返らせてくれる。

・毎週のジム通い。バーベルを挙げ、少しジョギング、サウナでしばらく過ごしてから、氷のように冷たい水風呂に浸かる。他にも、寒さに身を曝せばサバイバル回路が動作することが分かっている(暑さに身をさらすのがプラスに働くかははっきりしていない)。

健康を増進する遺伝子を一番多く活性化したのは「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」だっ
た。HIITは心拍数や呼吸数が著しく上昇する。一般的に脂肪を減らす目的で行われているが、本書では高齢の被験者ほど、HIITによる遺伝子活性化効果が大きかったということ。

・運動するほどテロメアが長い。運動は体にストレスをかける。これもHIITの活性化効果が高い。断食と運動を組み合わせる必要がある。精進料理を食べて滝行で体を冷やし、高野山・真言宗の阿闍梨のように山中を歩き続ける修行はサーチュインとNAD濃度が上昇して長寿になれるかもしれない(図6)。

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(3)薬物療法(薬剤師としての解説も加えています)
 食事、運動以上にエピゲノム系を変えるツールは「薬」である。老化が病気であると認識して、きちんとそれに対処する薬物療法によって、老化を遅くしたり、健康寿命を伸ばせる。エピゲノム化に重要なのがサーチュインという遺伝子であり、この遺伝子を活性化させるのは適度なストレスだが、NADがないと働けない。NADが細胞質内のSIR2酵素の活性を高める。NADは加齢とともに減少するのでその前駆物質を補充してやらないといけない。体内ではNR(ニコチンアミドリボシド)は体内でNMNに変換され、NADに変わる。NRをサプリとして飲んでいるヒトもいるがNMNのほうが安定しており効果が高いのではないかと著者は推測している(研究としてはNRを用いたものが多い)。
 他にも古い蛋白の分解やDNAの修復、老化細胞によって引き起こされた炎症を軽減するmTOR、代謝をコントロールしてエネギーレベルの低下に対処するAMPKなどの老化関連遺伝子として重要。これらは生体にストレスがかかると始動するので、低タンパク食やカロリー制限を行うことによってストレスをかける。

以下が長寿に効果のあると言われている薬物だ。
ラパマイシン(シロリムス)
:モアイ像で有名なイースター島の土壌から発見されたマクロライド系抗菌薬で免疫抑制薬としてPTCAの時に使われるステントに配合されたり、リンパ脈管筋腫症治療薬として用いられている。オートファジーを阻害するmTORを阻害し、NADの産生を促して寿命を延ばす働きを持つ。mTORを阻害することによる生命延長効果は動物実験ではわかっているもののmTOR阻害薬はもともと免疫抑制薬なので、感染症を発症しやすいし、消化器障害、蛋白尿や腎障害など多くの副作用があるためヒトでは臨床試験はやっていないようだ。

NMN:サーチュイン遺伝子を活性化させるのは適度なストレスだが、細胞質内のSIR2酵素の活性を高めるためにはNADがないと働けない。NADは加齢とともに減少するので、その前駆物質を補充してやらないといけない。体内ではNRは体内でNMNに変換されるので、NMNの方が効果的。本書ではNMNを摂取した高齢女性に止まったはずの生理が戻ってきたり、馬の生殖能力が回復した事例が報告されている。ヒトでの検証については今井教授が行っていて、動態的には吸収するためにはトランスポータが必要なものの非常に吸収が早く、枝豆、ブロッコリー、アボガドや血中に豊富なのでスッポンの生き血にも多いそうだが、NMNとして摂取したほうが現実的だ。今井教授らのマウスを使ったNMNの効果図7に示す(Mills KF, et al: Cell Meta 2016 Dec 13;24(6):795-806.)。

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メトホルミン:もともとはインスリン抵抗性を改善させ、安価なので欧米での糖尿病治療薬の第1選択薬。糖尿病治療薬としては①肝における糖新生を抑制し②筋肉・脂肪細胞でのインスリンの働きを良くする(糖取り込み促進)とともに③小腸からブドウ糖が吸収されるのを抑制する。ラパマイシンと同様、メトホルミンを摂取した場合もカロリー制限に似た効果が現われ、ミトコンドリアの働きを活性化し、エネルギーレベルの低下に対処するAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ: AMP-activated protein kinase)などの遺伝子を活性化することによって細胞内シグナル伝達系を刺激することにより、糖代謝を改善するとともにアンチエイジング効果を持つ。発がんリスク低減作用も注目されている。最近の報告では2型糖尿病患者の膵島ではオートファジー機構の不全があること、メトホルミンの添加がオートファジー機構の不全を改善することが明らかになっている。ただし、ラパマイシンのようにmTORを阻害するのではなく、ミトコンドリアの代謝反応を制限する方向に働く。ミトコンドリアは「細胞の発電所」ともいわれ、ブドウ糖などをエネルギーに変換する仕事をしているが、メトホルミンにはこのプロセスを遅らせる作用がある。すると、AMPKが活性化して細胞内にブドウ糖を取り込むのはメトホルミンの主作用だ(図8)。 20210607_8.png AMPKは酵素の一種で、エネルギー量が低下したときにミトコンドリアの機能を回復させる機能をもつ。メトホルミンはSirt1(サートワン)というサーチュインファミリーのタンパクの活性(NADを使ってタンパクの脱アセチル化を進める)も高める。ほかにも、がん細胞の代謝を抑えたり、ミトコンドリアの数を増やしたり(ミトコンドリアの機能低下を補うために細胞がミトコンドリアをより多く生成しようとするため)、折りたたみ不全のタンパク質を除去したりする効果が明らかになっている。

レスベラストロース:Sirt1を活性化して寿命を延ばす。赤ワインに含まれ、カロリー制限と同様の効果が得られると期待されている。赤ワインだと1日100杯分のまないと効かないので、サプリメントとして大量摂取するのが現実的だ。
 ちなみにSinclair教授が服用している薬物療法は以下の通り。ラパマイシンは免疫抑制作用に伴う様々な副作用が懸念されるためか、服用していない。

・NMN 1gを毎朝服用
・メトホルミン 1gを毎朝服用
・レスベラトロール 1g
 (自家製ヨーグルトに振り入れて混ぜて食べている)

・ビタミンDおよびビタミンK2の1日推奨量を摂取
 (日本人なら納豆でもいいのでは?)
・83 mgのアスピリン
を服用
 (NSAIDとしてではなく抗血小板薬として)

 健康系・教育系Youtuberが「NMNはアマゾンでも売っているが、1日1gも摂ると高額で1か月10万円もする」という人が複数いたし、レスベラトロールも1日1gではかなり高額なものが多いが、海外からの輸入商品を丹念にチェックすると2021年6月現在の最安値はアマゾンではなく楽天でNMNは6.95mg/円、他のサイトでの海外商品レスベラトロールは16.16mg/円であった。1日推奨摂取量はSinclair教授自身にも分かっていないので、きっと十分量を摂って、余ったものは尿中に捨てればいいと思っているはずだ。そして欧米人に比べて日本人は小柄ということを併せて考えてみれば、それぞれ1日500mgを摂るとするとNMNは1日78円、レスベラトロールは1日30.9円。1日100円と考えれば、決して高い金額ではない。

(4)意外と健康に良くないもの
 一般的に筋トレに有用とされている分子差鎖アミノ酸(BCAA)の中で、特にロイシンは良くない。筋肉がつくのはロイシンがmTORを活性化するからだ。ベジタリアンが長寿である理由も同じ。赤肉に含まれるカルニチンは腸内細菌によって、心血管病変を悪化させる尿毒素トリメチルアミン-N-オキサイド(TMAO:本ブログのわかりやすい細菌と抗菌薬の話 第12回参照)に変換されるになるためよくない。ということで肉は良くない。メチオニンはオートファジーを抑制するmTORを活性化するので、摂取を制限する。
 抗酸化サプリはCoQ10,α-リポ酸、ビタミンE、アスタキサンチンなど長寿とは無縁だ。様々なサプリメーカーが長寿を謳っているだけで、論文で証明されているものではない。レスベラトロールは抗酸化サプリとしても発売されているが、sir2酵素を活性化することによって寿命を延ばす作用が証明されている。
 
あとがき
 Sinclair教授はオーストラリア出身でハーバード大学医学部の老化と寿命延長の生物学に関する医学研究者です。1969年生まれなので私よりも15歳若いのですが、2013年にはシドニーのオペラハウスでTED Talkで講演をされています。とても人を惹きつける講演内容であり、Youtubeで見れます。日本人ではワシントン大学の今井教授も長寿遺伝子の研究をしており、母校の慶應義塾大学での講演でYoutubeでのリーダーシップのあり方、講演のテクニックに関しての講演も秀逸です(これは日本語)。
 この研究成果を見て、高齢者がどんどん増えていったらどうなるんだ、と考える人も多いかと思いますが、健康寿命が高くなれば、若年者が少なく未来の希望の光の見えない日本でも、元気な高齢者が社会を活性化できればいいという考え方もできると思います。
 長寿遺伝子の研究はいまだ完成されているとは思いません。でも10年後、20年後、現在行われているヒトでのデータが蓄積すれば、戦前までは結核や肺炎などの感染症が不治の病だったのが、今では抗菌薬で簡単に治癒できるのと同じように、「あの頃の平均寿命は80歳くらいって言われてたけど、今は80歳じゃまだまだ現役で仕事ができるものね(現に平田が子供のころの60歳は腰の曲がった老婆か完全なご隠居さんのイメージだった)」という時代が来るかもしれません。60歳代の現役プロ野球選手、60歳の横綱が生まれ、80歳のマラソンランナーが3時間以内でフルマラソンを完走できるのは、ひょっとしたら将来的にはありかもしれません。ただし超高齢のねたきり末期心不全患者がジョギングできるようになる、透析患者の尿量が増えて透析が不要になる、老眼も白内障も緑内障も完治するようになるには幹細胞移植の助けも必要になるのではないでしょうか。

 

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プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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