NSAIDsによる腎障害

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
23日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
⑤CKD患者へのNSAIDs、アセトアミノフェンの適正使用

(1)CKD患者にNSAIDs用量を減量ではなく、投与回数を減量
 NSAIDsはすべて肝代謝により消失します。尿中排泄されると添付文書に記載されていても、活性を持たない代謝物となって腎排泄されるため、腎不全患者でそれらが蓄積しても何も起こりません。したがって、すべてのNSAIDsで腎機能低下患者に投与量を減量する必要はないのです。AKIの発症を気にして減量すると逆に確実な効果が得られなくなる可能性があります。ただし16日目に書いたように、ひょっとしたら末期腎不全患者ではCYP2C9の発現量が低下するため減量しなくてはならない可能性もありますが……。腎機能低下患者、高齢者、心不全患者、高血圧患者、糖尿病患者など腎虚血を来たしやすい疾患やレニン-アンジオテンシン系阻害薬や利尿薬、その他の腎毒性薬物と併用はNSAIDsによるAKI発症のリスクが高くなります。そのため腎機能低下患者ではNSAIDsの漫然投与は避けるべきです。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
22日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
④鎮痛薬腎症はAKIではなく慢性腎不全。
その真犯人はフェナセチンだけではないことを突き止めたベルギーの論文を抄読してみよう!(2)

 アセトアミノフェンとアスピリンの複合剤で起こる鎮痛薬腎症のメカニズムは、これらを併用するとアスピリンがサリチル酸になり腎皮質および乳頭部に高濃度に濃縮されることが引き金となります。サリチル酸はグルタチオンを枯渇させることによって毒性代謝物NAPQIが生成され、腎乳頭タンパク質のアリル化および 酸化ストレスによって腎乳頭壊死を起こし、不可逆的な腎機能障害を起こす2)といわれています(図65)。また自殺企図や誤飲によるアセトアミノフェン超大量服用で起こる劇症肝炎と同時に、腎に存在するCYPによって毒性代謝物NAPQIが生成され、急性の鎮痛薬腎症をきたすことがあると言われていますが、頻度としては非常にまれと思われます。このような超大量服用した自殺企図や大量誤飲症例を除きAKIの発症はないと考えられ、アセトアミノフェンやアスピリンを含んだOTC鎮痛薬の長期大量連用による乳頭壊死または慢性間質性腎炎によって生じる透析導入に至る慢性腎不全が問題となります6)この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
21日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
③鎮痛薬腎症はAKIではなく慢性腎不全。
その真犯人はフェナセチンだけではないことを突き止めたベルギーの論文を抄読してみよう!(1)

 鎮痛薬腎症Analgesic nephropathyは腎乳頭壊死と間質性腎炎を特徴とする慢性腎不全です。これはオーストラリアやベルギーで発症率が高く、オーストラリアの女性透析患者の22%がフェナセチンによる慢性腎不全だったといわれています。フェナセチンを含むOTCの鎮痛薬の大量消費が主原因とされていましたが、現在ではアセトアミノフェン、ピリン系鎮痛薬、多くのNSAIDs(アスピリン、フェナセチン、フェニルブタゾン、インドメタシン、メフェナム酸、フルフェナム酸、フェノプロフィン、ナプロキセン、およびイブプロフェン)も発症原因になることが分かっています1)。乳頭壊死は剖検や腎切除後など例外的な患者でないと証明されなかったのですが、近年ではCTスキャンによって診断できるようになりました。鎮痛薬腎症はゆっくりと潜在性に進行するため、多くの鎮痛薬腎症の患者は重症になって尿毒症症状が現れてから受診することが多いようです2)この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
20日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
②「アセトアミノフェンAKIを起こす」説は腎機能低下患者ではNSAIDsではなく優先的にアセトアミノフェンが投与されているバイアスがあるからだ!

 腎機能が低下しているCKD患者にはNSAIDsの投与は推奨できませんが、それに代わる代替薬として欧米ではアセトアミノフェンが推奨されてきました。米国腎臓財団のAd Hoc Committeeは1996年から腎臓病患者への鎮痛薬としてアセトアミノフェンを推奨しており1)、アスピリンアレルギー、胃腸障害患者、利尿薬服用者、心疾患、高血圧、腎臓病、肝臓病患者、65歳以上の高齢者は医師の指示なしでNSAIDsの服用を禁止しています。これらの多くはNSAIDsによるAKIのリスク因子(育薬に活用できるデータベース→4.薬剤性腎障害→「3.表.NSAIDsによるAKIの危険因子」)と一致しています。

 また米国老年医学学会の鎮痛療法ガイドラインでも非選択性NSAIDs、 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

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19日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
①.アセトアミノフェンの薬理作用

 アセトアミノフェンは一般的には安全性は高いものの、わが国では長らく添付文書用量が1.5g/日であったためか、十分量が投与できませんでした。そのため鎮痛用量に達していないので、鎮痛作用はNSAIDsよりも弱くなり、日本ではOTC薬の鎮痛薬や風邪薬の配合剤としては汎用されているものの、医療用医薬品としてはまだまだ使用頻度は低いようです。ただしアセトアミノフェンは薬剤性肝障害の原因薬物のトップですが1)、多くは自殺企図などの超大量服用が原因です。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
18日目 米国医療制度の闇

 米国は先進国で唯一の皆保険制度のない国です。医療レベルは極めて高いのに、医療費は極めて高く、自分で保険会社の保険に加入していない人は病院に行く余裕はないので、超安値OTC薬のNSAIDsを大量購入します。米国の医療用イブプロフェンは800mgの錠剤もあるので、日本では胃障害が少なく鎮痛作用もマイルドなイメージがあるイブプロフェンも「ジクロフェナクと変わらないよ」と米国の薬剤師は言っていました。膝痛・腰痛で痛ければ安くて日本の2~4倍量のイブプロフェンを飲み、それでよくならなければすべて日本の倍量のナプロキセン、アスピリン、ケトプロフェンに手を出す。当然、胃障害と抗血小板作用による消化管出血によって1年に2万人近くが死亡していたのだと思います。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
17日目 米国で見た「Tylenol is not an NSAIDs」 というテレビCM と消化管出血による死亡者

 Native Speakerの人たちに医学用語や病名はあまり通じません。例えば腹膜透析peritoneal dialysisや腎不全renal failureといった言葉すらわからない一般人が多いのです。でも2005~2006年の米国留学中にタイレノールのテレビCMで「Tylenol is not an NSAIDs」というメッセージをよく見ました(写真)。要するにタイレノールはNSAIDsじゃないので安全ですよということを言いたかったらしいのですが、でも、なんで「テレビを見ている一般民にNSAIDsが通じるの?」という疑問を持ちました。日本でも一般の方はNSAIDsって言ってもわかってくれない人がほとんどなのに…。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
16日目 ワルファリンとNSAIDsを併用してはいけない本当の理由

 医師、薬剤師を含め多くの医療人が、ワルファリン服用者がNSAIDsを併用することによって重篤な消化管出血が起こる原因は、ワルファリンの抗凝固作用とNSAIDsによる胃障害・抗血小板作用による出血、つまり薬物動力学的相互作用と思っているかもしれません。これは確かにあります。また一部の薬剤師はワルファリンの蛋白結合率が99%以上と高いため、同様にほぼ90~99%以上の蛋白結合率で高用量のNSAIDsを併用することによって、ワルファリンの遊離型分率が上がるためと考えている方もいるかもしれません。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
15日目 NSAIDsのパップ剤や全身作用する貼付薬は安全?

 モーラステープなどのいわゆるNSAIDsの貼付薬ではどうなのか?これについてはよく質問を受けますので考察してみましょう。医学中央雑誌ではロキソプロフェン×AKIで88件ヒットしましたが(2021年8月12日の調べ、以下も同じ)、パップ剤に関しては間質性腎炎を含む報告が少数例あるのみです。ロキソプロフェンテープ×AKIは0件でロキソプロフェンパップ×AKIは0件。ただし局所パッチ剤での間質性腎炎の症例報告がありました(Int Med 53: 1131-1135, 2014)。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
14日目 経口NSAIDsを使うとしたら腎障害の少ないエビデンスレベルの高いものは何?

 経口NSAIDsとして使うとしたら腎障害の少ないものはあるのでしょうか?プロドラッグで腎におけるPG阻害の程度が他のNSAIDsと比べ軽いといわれていたクリノリル?(腎組織において再度非活性型に変換されるため、腎機能障害が少ないとされていた)やCOX-2選択性が高いとわれていたハイペン?などが、AKIを起こさないという確たるエビデンスがないのに、メーカーに騙されて使っている医師が多かったようですが、これは今も続いているようです。COX-2選択性阻害薬のセレコキシブに関しては腎障害が少ないという報告は筆者が検索しただけでも少なくとも6報ありました。腎障害患者にはアセトアミノフェンと並んで推奨できる可能性のある唯一のNSAIDとなるかもしれません。今回はそれらの論文を精査してみましょう。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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