薬剤師のための講座

 いよいよ10日目になりました。今回は偽性薬剤性腎障害の話です。つまり腎機能は全く悪くなっていないのに血清Cr値が20~30%上昇してしまったということがトリメトプリムやシメチジン投与後によく見られます。当然、CCrは低下しますが、GFRは変化しません。ということはCrの尿細管分泌をこれらの薬剤が阻害したということになります。この時に得られる実測CCrはGFRに近似するため、イヌリンを投与しないでGFRを測定する方法として使えるという報告もあります。ただしこれらの薬剤によってCrの尿細管分泌を100%抑えていないとGFRとして評価できませんが・・・・。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

  9日目です。これまで血清Crが低い痩せた高齢者では腎機能を過大評価してしまうという話をしてきましたが、今回は血清Crが低いけれども痩せていない若年者(論文では50歳以下と書かれていますが、実際には60歳以下でも十分にみられます)の話です。全身熱傷などでICUに入院した患者でよくみられることですが、大量輸液や血管作動薬の投与によって腎血流が増加しGFRが高くなっているためと考えられるため、この場合には血清Cr値が低いことは素直に腎機能がよいと考えていい場合が多いのです。

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 8日目です。推算CCrは肥満患者の腎機能を過大評価することを鉄則4で述べましたが、今回は逆に痩せた患者ではeGFRが過大評価してしまうということについてです。これは体表面積補正eGFR(mL/min/1.73m2)でも未補正eGFR(mL/min)でも同様の傾向を示します。この場合も蓄尿して得られる実測CCrに0.715をかけてGFRとして評価することができる非常に正確に腎機能マーカーになりますが、そこまで出来ない場合、血清Cr値が0.6mg/mL未満の場合には0.6を代入すると予測性が高くなることがあり、ラウンドアップ法とよばれています。シスタチンCを測定してeGFR(mL/min)を算出するのもよい方法ですが、これについては後述します。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

  7日目です。腎機能推算式はほとんどが血清Cr値(例外的にシスタチンCもありますがこれについては後述します)を用いて腎機能を推算しています。Crは筋肉を構成しているクレアチン(体内に約120g程度存在します)から筋肉で代謝されて1日約1%が老廃物であるCrが産生されています。Crは代謝されず血漿タンパクと結合しないため、100%糸球体濾過され、再吸収もされませんが、20~30%程度尿細管分泌されるため糸球体濾過量(GFR: 正常値100mL/min)よりも高く、CCrの正常値は120~130mL/minになります。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

  6日目です。前日のイントロでも触れましたように臨床上、Cockcroft-Gault(CG)式は最も優れたCCr推算式と言えます。ただし肥満患者では腎機能を過大評価するため、薬物投与設計にCG式を用いると過量投与の原因になるため、「肥満患者では理想体重または標準体重を入力する必要がある」というルールを認識していない医療従事者が多いので、これは要注意です。標準体型の方にCG式はそのまま用いて構いませんが、明らかな肥満患者ではCG式には理想体重または標準体重を代入しましょう。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

 5日目です。CCr推算式は多くの専門家によってかなりの種類のものが作成されていますが、Cockcroft-Gault(CG)式はその中で唯一、現在でも使われ続けています。ということは、臨床上、最も優れたCCr推算式と言えるかもしれません。ただし肥満患者では理想体重または標準体重を入力する必要があり(後述)、高齢者では低く見積もられるのが問題と思われます。

 入院患者では入退院を繰り返すような虚弱(フレイル)な高齢者が多い、そしてそのような患者では腎機能が低下しやすい、そして栄養状態が悪く免疫能の低下した患者が院内感染に罹患しやすく、腎排泄性薬物の多い抗菌薬の投与設計に適していた。これらは私の推測ですが、これらの理由からCG式が高齢者に適合しやすい理由かもしれません。確かに長期臥床の痩せた高齢者ではeGFRよりもCG式のほうが腎機能の予測性が高いことがよくあります。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

 4日目です。添付文書の腎機能は多くはCCrで表されていますが、実はこの添付文書のCCrは我々が日常使っているCCrとは異なるのです。そのためこの違いに気づいていないと、抗がん薬のカルボプラチンによる血小板減少、TS-1による骨髄抑制、ダビガトランによる出血といったハイリスク薬による重篤な副作用を招くことになります。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

 3日目です。いよいよ鉄則1です。検査せんに最近載るようになってきたeGFR(mL/min/1.73m2)は薬物投与設計には使えません。なぜかというと・・・・ この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

 2日目ですね。最初に各種腎機能パラメータにはどのようなものがあり、どのよう使い分ければよいのかについてまとめてみたいと思います。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

 最近、薬剤師サロンへの問い合わせ、また私自身に来る講演依頼で最も多いのが「腎機能の評価の仕方について」です。ただし「腎機能を評価するのはCockcroft式を使ってCCrを求めたらいいじゃない?」という考えは腎排泄性のハイリスク薬に関して通じません。腎機能を正しく評価することはそんなに簡単ではありません。そこで・・・

本日より「腎機能を正しく評価するための10の鉄則」について連載したいと思います。

 この作成には熊本済生会病院薬剤部の柴田啓智先生、熊本中央病院の宮村重幸先生にもお知恵を拝借しております。ではまず本日、1日目は「腎機能を正しく評価するための10の鉄則」の要約です。


◆10の鉄則

【 1 】 eGFRcreat、 CCrでmL/min/1.73m2は薬物投与設計に使わない。mL/minを使うが、抗菌薬・抗がん薬などで投与量がmg/kgやmg/m2となっている場合にはmL/min/1.73m2を使う。

【 2 】 今までの添付文書記載の腎機能として記載されているCCrはほとんどJaffe法による血清Cr値測定による。CCrJaffeはGFRと近似するため、薬物投与設計時の患者の腎機能は酵素法によるCCrEnzは用いずeGFR(mL/min)を使うか、CG式の血清Crに患者の(血清CrEnz+0.2)を代入して求めた推算CCrを使う。

【 3 】 CG式による推算CCrEnzは薬物投与設計には原則として用いないが、血清Cr値の低い痩せた患者にeGFRcreat推算式を使うと過大評価してしまう。そのため後期高齢者やがん末期などのフレイル症例にはeGFRcreatよりもCockcroft-Gault(CG)式による推算CCrEnzが適していることがある。

【 4 】 肥満患者の推算CCr算出のための体重は理想体重または標準体重を用いる。

【 5 】 高齢者のフレイルなど、腎機能予測式では正確な評価ができない症例には24時間畜尿による実測CCrEnz×0.715によりGFRとして評価すると正確な腎機能が得られる。畜尿CCrは畜尿忘れがないよう「畜尿忘れがあれば必ず伝えてください。正直に言ってくれないと薬が効かなくなる恐れがあります」と指導する。

【 6 】 血清Cr値が0.6mg/dL未満の高齢フレイル症例の腎機能推算式の血清Cr値として0.6mg/dLを代入すると予測性が高くなることが多い。ただし自分の目で症例の体格を確認すること。まれに痩せているがフレイルではなく活動的な症例の場合、腎機能がよい可能性がある。

【 7 】 60歳以下の腎機能正常者で全身炎症(SIRS)によりICU管理下で血管作動薬・輸液の投与を受けている患者ではeGFRが150~160mL/min/1.73m2に上昇することがある。これは過大腎クリアランス(ARC)により腎機能が高くなっており、血清Cr値は0.6未満になることもあるが、腎機能推算式や0.6mg/dLを代入するラウンドアップ法を使わず実測CCrの測定による腎機能の正確な把握が望まれる。

【 8 】 ST合剤、シメチジン、コビシスタットは尿細管におけるCrの尿細管分泌を阻害するため腎機能の悪化がなくても血清Cr値がわずかに上昇する。

【 9 】 軽度~中等度腎機能低下症例にはシスタチンCによるeGFRcysも推奨される。

【 10 】 上記の記載は腎機能低下患者にハイリスク薬を投与するとき、あるいは腎機能低下に伴いハイリスク薬になる薬を投与するときに考慮すべきものである。安全性の高い薬物では患者の腎機能にCCrEnzを用いても大きな問題はない。

 ◆附則

 ネフローゼ症候群などによる低アルブミン血症や糖尿病患者ではCrの尿細管分泌が増加し、腎機能を過大評価してしまう。
   高齢者のeCCrEnzに0.789をかけない。 eCCrEnzに0.789をかけるのは若年者のみである。
eGFRcreat: Crを基にしたeGFR, eGFRcys: シスタチンCを基にしたeGFR, CCrJaffe: Jaffe法によって測定したCCr, CCrEnz: 酵素法によって測定したCCr

 

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「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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