NSAIDsによる腎障害

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『NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~』の目次です。

 1日目:NSAIDsの4大副作用

 2日目:NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その1)

 3日目:NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その2)

 4日目:NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その3)

 5日目:NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その4)

 6日目:NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その5)

 7日目:Triple Whammy の片割れ、RAS阻害薬の利点・欠点

 8日目:利尿薬の利点・欠点

 9日目:降圧薬処方に対して薬剤師らしい服薬指導やってる?

 10日目:イナーシャになっていませんか?

 11日目:薬剤師の服薬指導でTriple whammyを防げれば

 12日目:Triple whammyによる脱水を早期発見せよ

 13日目:NSAIDsの腎障害は腎前性腎障害(腎虚血)だけじゃない

 14日目:経口NSAIDsを使うとしたら腎障害の少ないエビデンスレベルの高いものは?

 15日目:NSAIDsのパップ剤や全身作用する貼付薬は安全?

 16日目:ワルファリンとNSAIDsを併用してはいけない本当の理由

 17日目:米国で見た「Tylenol is not an NSAIDs」 というテレビCM

 18日目:米国医療制度の闇

 19日目:アセトアミノフェンについて深く知ろう①

 20日目:アセトアミノフェンについて深く知ろう②

 21日目:アセトアミノフェンについて深く知ろう③

 22日目:アセトアミノフェンについて深く知ろう④

 23日目:アセトアミノフェンについて深く知ろう⑤

 24日目:アセトアミノフェンについて深く知ろう⑥

 25日目:アセトアミノフェンについて深く知ろう⑦

 26日目:アセトアミノフェンについて深く知ろう⑧

 27日目:NSAIDsによる心不全などの心血管病変

 28日目:腎機能低下患者にはセレコキシブかアセトアミノフェンか?

 29日目:(最終回)整形外科医のNSAIDs処方の実態と抗炎症作用

 

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
29日目 (最終回)
整形外科医のNSAIDs処方の実態と抗炎症作用

 「NSAIDsはよく処方するんだけど、実は僕は腎障害を起こした経験が1度もないんだ」、「NSAIDsは確かによく処方するけど、これによる腎障害ってほとんど報告がないよね」って整形外科の先生方から、聞くことがあります。でも薬剤性腎障害原因薬物のどの調査でも腎障害原因薬物の薬効群では抗菌薬かNSAIDsが1位か2位で、3位は抗がん薬というのは変わりません(図1, 図213日目図1と同じです)。整形外科の先生はNSAIDsを高頻度に処方する科だと思いますが、ほとんど採血をしない科でもありますので、腎機能検査のオーダーをあまり出さないのも原因と思われます。 20211115_1.png 20211115_2.png

 それと腎障害の初期症状は食欲不振、全身倦怠感など腎機能が高度腎機能低下など、かなり悪くなってから発症する尿毒症症状であるため、このような症状が出れば整形外科ではなく、内科を訪れるからではないでしょうか。リスクの高い高齢者では定期的に血清Cr値やBUN、電解質などを測定しなければ、早期の腎障害をキャッチすることはできません。

 「高齢者にNSAIDsが連日処方されていますが、RAS阻害薬や利尿薬と併用されているのでアセトアミノフェンに変更していただけませんか?」と薬剤師が電話で疑義照会すると「NSAIDsは抗炎症作用を期待できるから処方してんのや!抗炎症作用のないアセトアミノフェンじゃあかん!」と言われることがよくあるらしいです。確かに炎症を主体とし、侵害受容器が活性化することで引き起こされる痛み、組織炎症が痛みの大きな要因になっている場合にはNSAIDsが効きやすく、NSAIDsは薬物療法の治療の重要な柱となります。ただし慢性炎症による痛みを訴える高齢者に上部消化管障害や腎機能障害、心血管病リスクの高いNSAIDsを1日3錠、毎食後30日分の漫然投与を繰り返すのはいかがなものでしょう?
 実際には多くの整形外科の先生方からは「痛み」に対するによる対症療法としてNSAIDsを処方していると聞きます。変形性膝関節症に対してX線画像上の膝関節内側の最小関節スペース幅(radiographic medial minimum joint space width: mJSW)の変化の関連を評価した報告では、NSAIDs使用群では非使用群に比べて、その後のmJSWの損失が有意に増加しました(回帰係数-0.042、95%CI:0.08~-0.0004, P=0.048)。つまり関節軟骨の変性・破壊が進行することが明らかにされています1)。「抗炎症作用を期待しているからNSAIDsでなきゃ」って、いったい何だったのでしょうか?

 この連載11日目で解説しましたが、Triple whammyの回避によってかかっていた可能な平均医療費は日本の70歳以上の数2,791万人(2020年, 人口の22.2%)に当てはめると77.87億円/年という膨大な額が副作用に充てられることが予測されます2)。そしてRAS阻害薬や利尿薬には生命予後改善や腎機能悪化速度を遅延するなど複数のベネフィットがあるのですが、NSAIDsに限っては痛みを抑える以外になんら得をすることがなく、飲めば飲む程、高齢者にとってはとても副作用が怖い薬なのです。

 健康な男性に対して使用する場合、NSAIDs生涯2,500錠以上投与しても慢性的な腎障害は起こらない3)。65歳未満に対して使用する場合、NSAIDsによって末期腎不全に至るのは生涯で5,000錠以上内服した時である4)、のような報告もあり、NSAIDsの漫然投与は高齢者が問題であって、若年者へのNSAIDsの投与はほぼ問題ないと考えます。

 高齢者にNSAIDsを30日分という漫然処方を、せめて頓服にしていただけないものか、あるいはこの処方内容なら、薬剤師は処方医のところに行って「痛くなければ飲まなくていい(本当は痛くないときには飲まない方がいい)」という服薬指導をさせていただくよう、薬剤師は医師と協議していただくとよいのではないでしょうか。変形性膝関節症は加齢とともに有病率が上昇し、80歳代の女性の有病率は80.7%、男性の有病率は51.4%と高く5)、腰痛はもっと多く、男性で1位、女性で2位の有訴者率を占める国民的な症状といわれているのですから6)

最終回のまとめ:NSAIDsの腎障害対策
①  若年者へのNSAIDs投与はTriple whammy処方でない限りほぼ問題ないが、高齢者でのNSAIDsの漫然投与はリスクが高い。

②  特に夏季の飲水励行の実施はNSAIDsによるAKIを予防できるであろう。

③  Triple whammyの中で、NSAIDsだけが痛みを抑える以外の利益がないため、できるだけ頓服処方に変更していただくか、「痛くないときには飲まなくてよい」という服薬指導をさせていただくよう処方医と話し合うとAKIを予防できるであろう。

④  Triple whammyのシックデイ対策を医師と協議し、医師とともにシックデイ対策を服薬指導に取り入れればAKIを予防できるであろう。

⑤  NSAIDsの漫然処方を十分量のアセトアミノフェン(2,400mg/日以上)投与への処方変更によって鎮痛作用を確保し、かつAKIを予防できるであろう。

⑥  経皮吸収率の高いモーラスや全身作用するロコアテープやジクトルテープは貼付枚数が多いと中毒性副作用が起こりうる。また用量依存的ではない間質性腎炎・糸球体障害はすべての外用NSAIDsで起こりうる。免疫チェックポイント阻害薬投与時のNSAID外用薬の安易な併用には特に要注意。

⑦  整形外科領域でもリリカ、サインバルタが奏功するかもしれない(イメージ的にはNSAIDsとアセトアミノフェンが先発ピッチャーで、これらが打たれたときのリリーフピッチャーのようなもの)。ただしリリカは腎機能に応じた減量は必須、サインバルタは重度腎障害には禁忌である。

⑧  NSAIDsでも効果ないなら1ランク上げてトラマールまたはトラムセットへの変更もAKIを予防できるであろう。

⑨  一番腎障害を起こしにくいNSAIDsはクリノリルやハイペンではない。セレコックスには(ランダム化比較試験3つを含む)も他のNSAIDsに比し、腎障害を起こしにくいという論文が6つあるが、CYP2C9を阻害するので、間違ってもワルファリンとは併用しないこと。セレコックスは心不全を悪化させないNSAIDであることも魅力であるが、血中濃度の立ち上がり(Tmax)が遅いので、頓用で使いにくい。

 

引用文献
1)Perry TA, et al: eumatology (Oxford). 2021 Jan 27;keab059. doi:10.1093/rheumatology/keab059.
2)JAMA. 2001 Jul 18;286(3):315-21.
3)N Engl J Med. 1994 Dec 331: 1675-1679, 1994
4)Carmin RM, et al: Nefrologia 35:197-206, 2015
5)Yoshimura N, et al: Int J Epidemiol 39: 988-995, 2010
6)厚生労働省: 2019年国民生活基礎調査

 

※次回連載予定「SGLT2阻害薬による心腎保護作用と適正使用」のための
SGLT2阻害薬に関する事前クイズ(解答・解説付き)
にご協力ください!

 

 

 

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
28日目 腎機能低下患者には
セレコキシブかアセトアミノフェンか?~UpToDateより~

 14日目にセレコキシブは他のNSAIDsに比し腎機能が悪化しにくい報告が5報、800mg/日の高用量服用でも腎機能は悪化しなかったという報告が1報あることはすでに解説しましたが、2021年10月5日の第6回「基礎から学ぶ薬剤師塾」で「セレコキシブはNSAIDsの中でも腎障害が少ないといわれていますが,RAS阻害薬+利尿薬と同時に併用した場合は,やはり中止またはアセトアミノフェンに変更するべきでしょうか?」という質問をいただきました。その時、平田は腎障害になりにくい報告が6報あり、心毒性が低いことからもセレコキシブは捨てがたいと思いました。ただし、漫然投与は避けたいと思っていますので、可能であれば頓服でと思っていたら、セレコキシブのTmaxは2時間と頓服で使うには長いことが薬剤師塾の質問で判明しました。セレコキシブは効果発現時間が長いのが欠点かもしれません。ロキソニンⓇの活性体trans-OH体のTmaxは0.79hr, カロナールⓇ(空腹時服用)も同じく0.79時間と速やかに吸収されます。セレコシブは頓服ではやや使いにくいので、少し残念!

 ということでUpToDateを調べ、非選択的NSAIDsおよびセレコキシブ、アセトアミノフェンの医薬品情報について調べてみました。 驚くことにセレコキシブの扱いはまたもや他の非選択的NSAIDsと全く同じでした。

以下はセレコキシブに関する記載です。

CCr≧60mL/min
用量調節の必要なし

CCr>30〜<60 mL/min
投与量調整は必要ないが、可能な限り短期間で最小用量を使用する。NSAID以外の鎮痛薬または局所NSAIDの使用が好ましい。腎機能悪化リスクが高い患者、すなわち、体積減少、低血圧、高齢者、または腎毒性薬物の併用での使用を避ける(Baker 2020;KDIGO 2013;専門家の意見)となっている。

CCr≤30 mL/min
急性腎障害のリスクの増加による使用を避ける。NSAIDではなく、他の鎮痛薬(平田注:おそらくアセトアミノフェン、トラマドール、デュロキセチンなど)または局所的なNSAIDの使用が好ましい。しかし代替薬が有効でない場合には患者の選択では、リスクと利益を慎重に評価した後、セレコキシブの使用が考慮される可能性がある。腎機能を頻回にモニタリングをして可能な限り最短期間で最小有効量を使用すること。

非常に慎重を期して使用すべき薬剤と理解しました。

ではアセトアミノフェンはどうなっているかというと

軽度から重度の障害: 投与量調整の必要なし。静注アセトアミノフェンの添付文書では、高度腎障害(CCr≤30 mL /min)の患者では投与間隔を延長すること、1日用量を減じることが記載されています。アセトアミノフェン濃度は上昇し半減期は延長しますが、正常な腎機能患者とほぼ同等である(Berg 1990;フォレスト1982;Martin 1991; Prescot 1989)。グルクロニドおよび硫酸抱合体は腎障害患者で蓄積するが、臨床的効果は不明 (Martin 1991)。

 ということでエビデンスを集約した米国の教科書的なUpToDateによると、腎機能低下時にはセレコキシブよりもやはりアセトアミノフェンを使えということでした。

 

※次回連載予定「SGLT2阻害薬による心腎保護作用と適正使用」のための
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NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
27日目 NSAIDsによる心不全などの心血管病変

 米国のNSAIDsの添付文書には警告として以下のような「重篤な心血管病変」の記載があります。「NSAIDsは、心筋梗塞や脳卒中を含む重篤な心血管血栓症のリスクの増加を引き起こし、致命的な可能性がある。このリスクは、治療早期に発症する可能性があり、使用期間と共に増加する可能性がある。冠状動脈バイパス移植片(CABG)手術時には禁忌である。」

 また同じく警告として「重篤な胃腸出血、潰瘍、穿穿」の記載もあります。「NSAIDは、出血、潰瘍、胃や腸の穿穿を含む重篤な胃腸有害事象のリスクの増加を引き起こし、致命的な可能性がある。これらのイベントは、使用中にいつでも発生し、予見症状を起こさずに発生する。高齢の患者および消化性潰瘍疾患および/または胃腸出血の既往歴を有する患者は、深刻な消化管出血事象のリスクが高い。」となっています。

 これらの記載は非選択的NSAIDsでもCOX-2選択的阻害薬のセレコキシブでもまったく同じ扱いですが、消化器障害が少ないことがCOX-2選択的阻害薬の売り文句であることは皆さんご存知のことです。日本のNSAIDsの添付文書には消化性潰瘍のある患者や重篤な心機能不全のある患者には「禁忌」になっていますが、上記のような警告の記載はありません。COX-2選択的阻害薬のロフェコキシブ(商品名バイオックス)は胃障害が少ないなどの有害反応が少ないNSAIDということで、2003年世界売り上げランキングが19位の大型商品に成長しました。しかし心不全・脳卒中などの心血管系副作用が増加することが明らかになったため、2004年に製造中止になり、製造会社の米メルク社は約190の訴訟に対し、8000万ドルを支払ったそうです。その後のAPROVe試験でプラセボ群と比較した調整したハザード比は1.72(95%CI: 1.13-2.62)で、ロフェコキシブ群で有意に多いという結果でした1)。この報告では「rofecoxibの心血管毒性は選択的COX-2阻害薬に共通の作用(class effect)と考えられるため、その使用に当たっては治療におけるベネフィットと心血管リスクを適切に評価する必要があるだろう」と指摘されています。では同じコキシブ系のセレコキシブは心不全を悪化させるのでしょうか?実際に危なくないのでしょうか?セレコキシブにはどのような報告があるのでしょうか? 探っていきましょう。

 2,035人を対象にしてセレコキシブの使用は心血管疾患、心筋梗塞、脳卒中、心不全による複合死亡のエンドポイントが用量増加と関連があることが報告されました2)。しかしその後、セレコキシブの心血管安全性を検証するために10倍以上の24,081人の患者を対象にしたRCTのPRECISION試験が行われ、セレコキシブの心血管リスクは対照薬のナプロキセン、イブプロフェンと比較し有意に少ないことが明らかになりました3)

 まずジクロフェナクはNSAIDs非投与群に比しすべての主要心血管病変の発症率が有意に高く、アセトアミノフェンに比し、主要心血管病変の発症率が有意に高いこと(図14)、ジクロフェナクはイブプロフェン、ナプロキセンに比し主要病変の発症率が有意に高いことも報告されています(図24)。そして9万人以上のNSAIDsによる入院患者と800万人以上を対照にしたケースコントロールスタディでは7つの非選択的NSAIDs(ジクロフェナク、イブプロフェン、インドメタシン、ketorolac、ナプロキセン、nimesulide、ピロキシカム)と2つのCOX2選択的阻害剤(etoricoxibとロフェコキシブ)に対する心不全の危険性が非服用者に比し増加しました。ジクロフェナク、etoricoxib、インドメタシン、ピロキシカム、ロフェコキシブの心不全の危険性は2倍に増加しましたが、セレコキシブが一般的な服用量で心不全のリスクを高めたというeエビデンスは認められませんでした(図35)。平田が思うに、図3だけでなく、多くの論文に目を通して感じたのは、NSAIDsの心毒性はロフェコキシブ>ジクロフェナク>イブプロフェン>ナプロキセン>セレコキシブの順に心不全を悪化させやすいと理解しています。図1を見るとアセトアミノフェンも心に全く影響がないわけではないことが分かり、腎にも心にも優しいセレコキシブがますます魅力的に感じられてきました。

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引用文献
1)Baron JA, etal: Lancet 372: 1756-1764, 2008
2)Solomon SD, et al: New Engl J Med 352: 1071-1080, 2005
3)Solomon DH, et al: Am J Med 130: 1415-1422, 2017
4)Schmidt M: BMJ 2018 Sep 4;362:k3426. doi: 10.1136/bmj.k3426.
5)Andrea Arfe, et al : BMJ 2016; 28;354:i4857.

 

 

NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
26日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
⑧アセトアミノフェンは効かない薬じゃない!~腰痛診療ガイドライン2019の深い謎~

 「アセトアミノフェンは効かない」という声をよく効きます。ただし1回500mgという低用量で「効かない」って言っていないでしょうか?せっかく4000mg/日(この用量で連日投与すると欧米に比し小柄な日本人にとっては肝障害が心配ですが)という国際的用量を投与可能になったのに…。せめて600mg×4回/日または1000mgの頓服(2~3回/日まで)をしないのでしょうか。

 腰痛診療ガイドライン2019 改訂2版1)で急性腰痛にはNSAIDsは1A(1は推奨度、Aはエビデンスレベル)で、アセトアミノフェンは2D(推奨度の合意率は100%になっています)で、これに関しては異論ありません。腰痛に関してはスタディが行われていなかったのですから。

 でも有効成分が不明なのに日本でのみ承認されているノイロトロピンの2Cには大きな違和感があります。推奨度の合意率は71.4%と低いのです。このガイドラインでは投票により投票者の7割以上の同意の集約をもって全体の意見(推奨決定)としていますが、7割以上の同意が得られなかった場合は、投票結果を示したうえで十分な討論を行ったのち、再投票を行ったとあるので、71.4%はぎりぎりセーフなのでしょうか?(1)

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 ノイロトロピンについては1977~1987年に行われた日本人の書いた5本の論文が収載されていますが、5報中、急性・慢性腰痛の疼痛を有意に改善したのは1977年の1報のみ、しかも5報で100%のうち5.4%しか寄与していないノイロトロピン使用者31名のみの論文です(図11)

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図2では、有効であったという論文はTsuyama1977とありますが、引用文献を見ると日本語で、しかも基礎と臨床(検索期間外)となっております2)。ちなみに「基礎と臨床」という雑誌はメーカーと医師が共同して「○○の使用経験、臨床効果」など主観的判断で薬効を評価するようなレベルの低い雑誌で、毎月発行され、その1冊が400ページもあるメーカーのお抱え雑誌で、複数査読性雑誌ではないと思います。だって「○○の使用経験」という論文ってタイトル名だけで、まずタイトルだけでまともな査読者はリジェクトするでしょ?同じ刊には「腰痛症におけるポンタールの使用経験」という論文がありました。ポンタールはロキソニンが販売される前の同じ会社の主力NSAIDでしたが、この論文は当然ですが腰痛診療ガイドライン2019のシステマティックレビュー(SR)論文の対象にはなっていません。ノイロトロピンのエビデンスを示した図2 1)のその他の論文もすべて和文でClinical Question2「腰痛に薬物治療は有用か」という章の中で和文論文は奇異なことに、このノイロトロピンに関する非常に古い論文5報のみでその他はすべて英語論文でした。これらの中には二重盲検比較試験も含まれていますが、今だったら二重盲検比較試験を和文で書く人はほとんどいません。なんで「複数査読制の英語にしなかったの」と思ってしまいます。このようなレベルの低い論文でシステマティックレビューをしたガイドラインって信頼できるのでしょうか?1980年前後って論文執筆者のCOIなんか調べていないのに、こんな和文論文を採用できるのでしょうか?ノイロトロピンは副作用の少ない薬であることは認めますが、アセトアミノフェンよりもエビデンスレベルが高いことが不思議でなりません。ちなみに2018年に刊行された慢性疼痛治療ガイドラインではアセトアミノフェンは1A(使用を強く推奨する)なのですから。

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 急性腰痛に対して東京大学医学部附属病院の2018年の報告によるとロキソプロフェン60mg×3回/日とアセトアミノフェン600mg×4回/日の群をランダムに割り当てられる無作為化比較試験を実施しました3)。疼痛強度は0〜10の数値評価尺度(NRS)を使用して測定され、一次転帰は非劣性マージン(疼痛の変化で0.84-NRS)でテストされ、二次転帰は2週目と4週目に従来の統計的方法を使用して比較されました。その結果、アセトアミノフェンはロキソプロフェンと比較して、少なくとも非劣性マージンに基づいて、同等の鎮痛作用が認められたため(図23)、アセトアミノフェンは日本の急性腰痛患者にとって合理的な第1選択薬になるとされています。この論文のabstractの冒頭に「現在の世界的な診療ガイドラインでは、急性腰痛の治療の最初の選択肢としてアセトアミノフェンが推奨されています。しかし、アセトアミノフェンまたは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が日本で急性腰痛の治療に効果的であるかどうかに関する具体的なエビデンスがありません」という理由でこの試験をやったというのです。

 さらに2020年には同じく日本での多施設共同研究(筆頭著者は北里大学医学部整形外科)でアセトアミノフェン、セレコキシブ、ロキソプロフェン、トラマドールとアセトアミノフェン(図のT+ACDはtramadol+acetoaminophen combination drugの略)の慢性腰痛への有効性をvisual analog scale(VAS)などを用いて比較した報告(図34)では、アセトアミノフェンを含むこれらの4種の鎮痛療法の報告とも痛みの有意な改善を示しています。しかもアセトアミノフェンの1日平均用量は

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1095~1167mg/日と非常に低いのです。ランダム化がされていないというリミテーションはありますが、こんな低用量のアセトアミノフェンがNSAIDsやトラムセットと同等に効果があったのです。しかも日本発の腰痛特異的健康関連QOL評価法として日本整形外科学会腰痛疾患問診票(JOABPEQ: Japanese Orthopedic Association Back Pain Evaluation Questionnaire)というメンタルスケールではアセトアミノフェンとトラムセットでは各々5点、2.5点改善したものの、ロキソプロフェンとセレコキシブの両NSAIDsのスコアが悪化したというおまけつきで、これはアセトアミノフェンの中枢におけるプロスタグランディン合成の抑制かもしれないと考察されています。JOABPEQではアセトアミノフェン投与1か月後で有意に改善(P=0.02)し、さらに日本整形外科学会が制定した整形外科的な身体機能の判定基準として用いられる身体機能のスコアもアセトアミノフェン群は6か月後に有意に改善しました (P<0.01: 図4)。ということでアセトアミノフェンは腰痛に効きます!腰痛診療ガイドライン2019 改訂2版に示されたように決してノイロトロピンよりも劣るような薬ではありません。NSAIDsに十分対抗できる鎮痛薬、しかもNSAIDsと異なり、安全で様々な有用性を秘めた鎮痛薬だと思います。次回に改訂されるドラインではアセトアミノフェンは2Dからよりエビデンスレベルの高いものに変わるはずです。

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引用文献
1) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会, 腰痛診療ガイドライン策定委員会他: 腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版), 2019
2)津山直一, 他: 基礎と臨床11: 309-320, 1977
3)Miki K, et al: I Orthop Sci 23: 483-487, 2018
4)Inoue G, et al: Spine Surg Relat Res5: 252-263, 2020



NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
25日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
⑦アセトアミノフェンの肝障害~埼玉県保険金殺人事件の真相~

 アセトアミノフェンは小児・妊婦・高齢者にまで広く使用される安全な薬物ではありますが、この辺で副作用のことに触れてみましょう。実はアセトアミノフェンはWHOの報告では重篤な薬剤性肝障害のトップとされています(図11)。ただしこれらの多くは自殺企図などの極めて不適切な使用によるものが大半を占めます。20211101_1.png アセトアミノフェンの不適切使用の典型的な例を紹介したいと思います。埼玉県の保険金殺人事件で中心人物として殺人罪などに問われた金融業、Y被告(当時52歳)は1999年に元パチンコ店員に多量の風邪薬と酒を長期間飲ませて殺害しました。また2001年5月に入院した元塗装工にかけた保険金を詐取しようと、大量の風邪薬と大量の酒を長期間飲ませて殺害を図ったとされます。被害者はともに偽装結婚させられて、2人合わせておよそ12億円の保険金をかけられたのです。これは風邪薬に含まれるアセトアミノフェンとエタノールの相互作用を利用した巧妙かつ極めて悪質な手口です。
 CYP2E1はエタノールによって誘導されます。よく麻酔薬が効かないとか、痛み止めが効かないことが多くて問題になるのは鎮痛薬のアセトアミノフェン、吸入麻酔薬のイソフルラン、エンフルラン、ハロタンはCYP2E1によって代謝されるためです。かつて国民的ヒーローだったプロレスラーの力道山も大量飲酒癖があり、暴力団員に腹部を刺されて全治2週間といわれましたが、腹膜炎を発症して死亡しましたが、腹膜炎手術時に麻酔薬が効かなかったといわれています。
 アセトアミノフェンは通常は60%がグルクロン酸抱合、30%が硫酸抱合によって尿中に排泄されて消失しますが(19日目の図1を参照)、大量飲酒によって誘導されるCYP2E1によって毒性代謝物N-アセチル-P-ベンゾキノンイミン(NAPQI)になって、肝臓の蛋白質と共有結合して肝細胞壊死をきたします(図2)。前述のアセトアミノフェンの大量服用ではグルクロン酸抱合系、硫酸抱合系が飽和するため、NAPQIが産生されますが、これは通常はグルタチオン抱合され速やかに消失するのですが、連続飲酒によってグルタチオンが枯渇するため、NAPQIが消失せずに蓄積します(図2の赤字・赤線部分)。だからこの事件は大量飲酒+大量のアセトアミノフェン服用によって致死性の肝障害が発症することを利用した悪質な手口なのです。20211101_2.png このような事件は非常にまれですが、これを教訓に「アルコール多量常飲者にアセトアミノフェンを投与すると肝不全を起こしやすくなり、胃腸障害も起こしやすくなる恐れがある」ため、アセトアミノフェンが投与された患者さんやアセトアミノフェンを含むOTC薬購入者には「服用時には飲酒しないこと」を服薬指導に取り入れましょう。通常は7.5g/日を服用すると死亡リスクが高くなるといわれていますが、アルコールと一緒にだとアセトアミノフェン4.8g服用しただけで急性肝不全で死亡した症例も報告されています2)
 実は2006年にアセトアミノフェンを1日4g投与するとAST, ALTが上昇する患者が散見される(実際に肝障害が起こったわけではない)という報告以降3)、体格の大きな米国でも肝障害が問題になり、米国FDAは2011年1月13日に1規格あたりのアセトアミノフェン用量を325mg以下にすること、325mg以上のアセトアミノフェン含有製剤に「重症の肝障害を起こす危険性」を枠囲み警告することをメーカーに要請しました。
 重症肝障害の多くは以下の症例で発現しやすいとされています。
①24時間以内に4000mg以上のアセトアミノフェン含有製剤を服用した患者
②アセトアミノフェン含有製剤を2種以上同時服用した患者
③薬剤の服用とともにアルコールを飲んだ患者

 

引用文献
1)Bjornsson E, Olsson R: Dig Liver Dis 38:33-38, 2006
2)清水 勝, 他: 肝臓30: 690-694, 1989
3)Watkins PB, et al: JAMA 296: 87-93, 2006



NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
24日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
⑥アセトアミノフェンの添付文書は明らかに間違っている

◆クイズ
以下の添付文書の記載はロキソプロフェンのものでしょうか?
アセトアミノフェンによるものでしょうか?

禁忌(次の患者には投与しないこと)
1.消化性潰瘍のある患者[症状が悪化するおそれがある。]
2.重篤な血液の異常のある患者[重篤な転帰をとるおそれがある。]
3.重篤な肝障害のある患者[重篤な転帰をとるおそれがある。]
4.重篤な腎障害のある患者[重篤な転帰をとるおそれがある。]
5.重篤な心機能不全のある患者[循環系のバランスが損なわれ,心不全が増悪するおそれがある。]
6.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
7.アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者[アスピリン喘息の発症にプロスタグランジン合成阻害作用が関与していると考えられる。]

正解:アセトアミノフェン(カロナール)の添付文書

 この添付文書っておかしくありません?アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)って鎮痛解熱薬であって非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)ではないアセトアミノフェンでは関係ないでしょ。NSAIDsの喘息誘発作用はCOX阻害によってリポキシゲナーゼ(LOX)経路にシフトして、強力な気管支収縮作用を有するロイコトリエンの産生増加に起因しますが、アセトアミノフェンにはCOX阻害作用はありません。

 「消化性潰瘍のある患者」ってなんで?だってOTC薬のタイレノール(アセトアミノフェンの世界的ブランド)には「空腹時にのめる優しさで、効く」って書いているのに(写真参照)!重篤な血液の異常のある患者って、20211028_1.pngアセトアミノフェンに抗血小板作用なんてないでしょ。心不全が増悪する?肝機能障害なら増悪しますが……。そしてアセトアミノフェンによる腎機能悪化ってOTCの鎮痛薬複合剤(アセトアミノフェン単独では起こしません)の大量長期服用して起こる非常にまれな鎮痛薬腎症による「腎乳頭壊死」か高用量投与によって重篤な肝障害を伴う細胞障害性毒素NAPQIによる尿細管壊死ですよ。ではNSAIDsの代表格であるロキソプロフェンの添付文書と比較してみましょう。

以下がロキソプロフェンの添付文書

2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)
2.1 消化性潰瘍のある患者[プロスタグランジン生合成抑制により、胃の血流量が減少し消化性潰瘍が悪化することがある。]
2.2 重篤な血液の異常のある患者[血小板機能障害を起こし、悪化するおそれがある。]
2.3 重篤な肝機能障害のある患者
2.4 重篤な腎機能障害のある患者
2.5 重篤な心機能不全のある患者
2.6 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2.7 アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤等による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者[アスピリン喘息発作を誘発することがある。]
2.8 妊娠後期の女性

 

 ほぼ内容が同じですよね。これじゃ同じ薬効群と間違えてしまいますよね。日本の添付文書は、薬機法に基づいて作成される公文書ですが、「医療用医薬品の添付文書は,医薬品医療機器法の規定に基づき,医薬品の適用を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために,医師,歯科医師,薬剤師等の医薬関係者に対して必要な情報を提供する目的で,当該医薬品の製造販売業者が作成するもの」となっています。

 NSAIDsは末梢に作用し、アセトアミノフェンは中枢に作用という差があり、アセトアミノフェンは知覚神経の通り道である視床に作用して、痛み閾値を上昇させますがNSAIDsは末梢のCOX阻害によるPG産生を抑制するため胃障害、腎障害、易出血性、アスピリン喘息、心不全の悪化などの副作用があります(セレコキシブには心不全悪化作用はありません)。

 NSAIDsに比し、アスピリン喘息に対しては安全性が高いと考えられています。ただしアセトアミノフェンも喘息の原因になるという報告もありますので1)、添付文書上の禁忌もやむを得ないでしょう。ただし「アスピリン喘息の発症にPG合成阻害作用が関与していると考えられるためアスピリン喘息(NSAIDsによる喘息発作の誘発)、又はその既往歴のある患者にはアセトアミノフェンは禁忌」という添付文書の記載もアセトアミノフェンをNSAIDsと混同した間違いと考えられます。

 アセトアミノフェンは低用量では胃障害はほとんど起こさないため2)、NSAIDsと同様に消化性潰瘍に禁忌にすると鎮痛薬の選択肢を狭めてしまうし、抗血小板作用がないため、重篤な血液の異常がある患者に禁忌にすべきではありません。また重篤な腎障害のある患者にもAKIを起こさないアセトアミノフェンは、米国では慢性腎臓病(CKD)患者に対して禁忌ではなく、鎮痛療法の中心になっています3)。重篤な肝障害、重篤な腎障害にはNSAIDsもアセトアミノフェンも使えないとなると、オピオイドをこのような患者に第1選択薬にさせたいのでしょうか?非常に不可解であり、わが国でも重篤な腎障害に禁忌とするよりも、逆に慎重投与としNSAIDsに代わって積極的に推奨すべきではないでしょうか。またNSAIDsでも「重篤な腎障害には禁忌」に付け加え、腎機能の廃絶した無尿の透析患者では腎機能の悪化を考慮する必要はないため「ただし無尿の透析患者は除く」と追記していただきたいと切に願っております。

 これだけじゃないのです。米国の添付文書はFDAが何か起こったら速やかに添付文書の改訂をメーカーに書き換えを命じていますが、日本ではそのスピードが著しく遅いのです(というか、社会的問題にならない限りやろうとしない)。有機アニオントランスポータを介したスタチンの肝取り込みがOATP1B1阻害薬のシクロスポリンによってリバロ、クレストールという新薬の血中濃度が上昇するため、添付文書に禁忌事項に併用禁忌と載っているのに、シクロスポリンによるOATP1B1阻害だけではなく、CYP3A4阻害も受けるため、最も血中濃度が上がって筋症myopathyを頻繁に起こすアトルバスタチンの添付文書が、いつまでたっても書き換えられていない。だから配合禁忌のリバロ、クレストールが処方されると、ORTP1B1だけではなく、CYP3A4も阻害して、より危ないアトルバスタチンに変えようとする医師・薬剤師がはびこる。透析医学会のシンポジウムでの「添付文書上、併用禁忌になっていないのにシクロスポリンの併用でリピトールによるmyopathyが何度も起こるんだ!」というある医師の質問にシンポジストたちは全く答えられなかったため、フロアから「新しい薬の添付文書に載っている禁忌情報は、すでに発売されている薬にまでは反映されないのです」と代わりに平田が答えたことがあります。だからちゃんと添付文書の整合性を取ってほしい。改訂が遅すぎるし、緩すぎるのが日本の添付文書!厚労省の皆さん、何とかしてくれませんか?我々薬剤師ももっと声を上げなきゃだめだよ。

 

引用文献
1)Shaheen SO, et al: Thorax 55: 266-270, 2000
2)Sakamoto C, Br J Clin Pharmacol 62:765-772, 2006
3)Wu J, et al: Clin J Am Soc Nephrol 10: 435-442, 2015



NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
23日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
⑤CKD患者へのNSAIDs、アセトアミノフェンの適正使用

(1)CKD患者にNSAIDs用量を減量ではなく、投与回数を減量
 NSAIDsはすべて肝代謝により消失します。尿中排泄されると添付文書に記載されていても、活性を持たない代謝物となって腎排泄されるため、腎不全患者でそれらが蓄積しても何も起こりません。したがって、すべてのNSAIDsで腎機能低下患者に投与量を減量する必要はないのです。AKIの発症を気にして減量すると逆に確実な効果が得られなくなる可能性があります。ただし16日目に書いたように、ひょっとしたら末期腎不全患者ではCYP2C9の発現量が低下するため減量しなくてはならない可能性もありますが……。腎機能低下患者、高齢者、心不全患者、高血圧患者、糖尿病患者など腎虚血を来たしやすい疾患やレニン-アンジオテンシン系阻害薬や利尿薬、その他の腎毒性薬物と併用はNSAIDsによるAKI発症のリスクが高くなります。そのため腎機能低下患者ではNSAIDsの漫然投与は避けるべきです。しかし、添付文書上で「重篤な腎障害に禁忌」になっていても、その理由が「急性腎障害、ネフローゼ症候群等の副作用を発現することがある」ということです。腎機能の廃絶した無尿の透析患者に関しては急性腎障害等の副作用は起こらないのですから、胃腸障害のリスク、易出血性のリスクなどの多様な副作用を除けば、NSAIDsを投与しても問題ありません。

(2)CKD患者にアセトアミノフェンを減量ではなく、投与回数を減量
 一方、アセトアミノフェンは緩和医療の鎮痛療法の記載の中で透析患者では血中アセトアミノフェン濃度上昇の報告があるとされています1)。腎不全患者のグルクロン酸抱合体濃度は健常者の13~29倍、腎不全患者の硫酸抱合体濃度は健常者の13~23倍2)に上昇し、腎不全患者では10日間の連続投与により血中トラフ濃度が約3倍に上昇すると書かれています。
 Aronoffらは腎機能の低下とともに投与間隔を延長することを推奨しているものの3)、半減期は投与後2~8時間内では2.1~2.3時間で腎機能による差はありませんが、投与後8~24時間では12.7hr(透析患者)と2倍以上に延長(健常者4.9hr)するが、これは腎不全患者では抱合体が蓄積し、胆汁排泄され、脱抱合されて再吸収される腸肝循環することによります(図14)図1の血漿アセトアミノフェン濃度を示すY軸は対数軸で示されているため、1µ/mL未満域の幅が広いため差が大きそうに見えますが、この報告では1回1gを1日3回、10日間連続投与してもトラフ値が腎不全で3.1μg/mL、健常者で1.1μg/mLにしかなっておらず、ピーク濃度15~25μg/mLがわずかに上昇するのに過ぎないため、AUCは大差ありません。そのためアセトアミノフェンは腎機能低下患者で大幅な減量は不要と考えられます。そして日本人をはじめとした東洋人は体格が欧米人に比べ小さいことを考慮し、さらにアセトアミノフェン錠500mg錠が発売されたことを考慮すると1回500mg~600mg を1日3~4回(できるだけ食後)の投与が適切であり、この用量であれば透析患者でも減量の必要はないと考えられます。

20211025_1.png (3)NSAIDs、アセトアミノフェンの服薬指導のポイント
 NSAIDsの場合、胃障害を避けるため空腹時服用を避ける必要があります。16日目のコラムでも記載したように「食事はいつ摂られましたか?もし空腹時であればクッキーやビスケットなど軽い間食を食べてから、コップ1杯以上の水、できれば牛乳とともに飲んでください。そうすれば胃の痛み、胃のむかつき、胃もたれなどの副作用は抑えることができます。」という内容の服薬指導が必須です。またアスピリン喘息でないことの確認が取れない場合の投与は避けるべきです。
 アセトアミノフェンの場合、指示された投与量以上を服用しないこと、アセトアミノフェン服用時に飲酒を避けること、他のOTC薬などの鎮痛薬(アセトアミノフェンを含有する可能性がある)を同時に服用しないことなどなどを指導する必要があります。またアルコール多量常飲者、絶食・低栄養状態・摂食障害のある患者さんには肝障害が起こりやすくなるため、適していません。

 

引用文献
1)日本医師会監修, 木澤義之, 森田達也編: 2008年版がん緩和ケアガイドブック, 青海社, 東京, 2008
2) Martin U, et al: Eur J Clin Pharmacol, 1991, 41: 43-46.
3) Aronoff GR , et al ed: Drug Prescribing in Renal Failure Dosing guidelines for adults and children, 5th Edition, American college of Physicians Philadelphia, 2013
4) Prescott LF, et al: Eur J Clin Pharmacol 36: 291-297, 1989

 



NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
22日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
④鎮痛薬腎症はAKIではなく慢性腎不全。
その真犯人はフェナセチンだけではないことを突き止めたベルギーの論文を抄読してみよう!(2)

 アセトアミノフェンとアスピリンの複合剤で起こる鎮痛薬腎症のメカニズムは、これらを併用するとアスピリンがサリチル酸になり腎皮質および乳頭部に高濃度に濃縮されることが引き金となります。サリチル酸はグルタチオンを枯渇させることによって毒性代謝物NAPQIが生成され、腎乳頭タンパク質のアリル化および 酸化ストレスによって腎乳頭壊死を起こし、不可逆的な腎機能障害を起こす2)といわれています(図65)。また自殺企図や誤飲によるアセトアミノフェン超大量服用で起こる劇症肝炎と同時に、腎に存在するCYPによって毒性代謝物NAPQIが生成され、急性の鎮痛薬腎症をきたすことがあると言われていますが、頻度としては非常にまれと思われます。このような超大量服用した自殺企図や大量誤飲症例を除きAKIの発症はないと考えられ、アセトアミノフェンやアスピリンを含んだOTC鎮痛薬の長期大量連用による乳頭壊死または慢性間質性腎炎によって生じる透析導入に至る慢性腎不全が問題となります6)

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 海外ではフェナセチンが製造中止になった1983年以降、鎮痛薬腎症は減少し続け、またスイスではフェナセチンの毒性代謝物による乳頭壊死と確認された剖検例は1978年~1980年には約3%あったのが、フェナセチンが製造中止になって、アセトアミノフェンに変更されて7年以上経過した2000年~2002年には616名の剖検例中、乳頭壊死は79歳の男性1例のみ(0.2%)に減少した7)という報告があり、乳頭壊死は鎮痛薬中に含まれるフェナセチンの市場からの撤退によって著明に減少したと考察しています。

 鎮痛薬腎症は頭痛ないし腰痛のある中年女性に多く、長年にわたり、連日大量服用した症例で発症し8)、生涯にわたる累積服用量が3kgを超えるなど、多ければ多いほど発症しやすい(9)、あるいは透析導入になった患者22名は 平均 7.8 kg  (2.7~30.8kg)の非ピリン系鎮痛薬(アニリン系、すなわちフェナセチンまたはアセトアミノフェン)を平均21.5年(6~35 年)間服用していたという報告もあり、フェナセチンを含有しない鎮痛薬では末期腎不全の危険性は低いことが示唆されています10)。すなわち鎮痛薬腎症は急性腎障害(AKI)ではなく乳頭壊死による慢性腎不全で、原因は生涯にわたる数kgのフェナセチンまたはアセトアミノフェンだけでなくピリン系やアスピリンなどの複合鎮痛薬の服用によって起こるものです。アセトアミノフェン単独では起こりません。そしてアセトアミノフェンはNSAIDではありませんから、13日目で解説したとおり、①輸入細動脈収縮による腎前性AKI、②尿細管を栄養する輸出細動脈の虚血による尿細管壊死、③免疫反応が介在する糸球体障害、④アレルギー性間質尿細管性腎炎は起こしません。腎機能正常者が対象のコホート研究ではアセトアミノフェンによって腎不全に至る相対危険度は有意に低かったという報告があります11)。さらにCKDステージ4, 5の患者に対してもアセトアミノフェンは安全で、アセトアミノフェン累積服用量は腎機能に影響しないという報告もあります12)。さらにアセトアミノフェン単独で鎮痛薬腎症を起こすというエビデンスは存在せず、健常者への疫学的調査でもアセトアミノフェンの使用と慢性腎不全への進行あるいは古典的な鎮痛薬腎症にいたるという有意な関係を見出すことはできないという報告もあります13)

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 京都大学附属病院の電子カルテからアセトアミノフェンの処方歴があり急性腎障害を発症した1,871名を対象にした検討では、 NSAIDsの投与では有意に急性腎障害を発症するものの、アセトアミノフェン投与者は非投与群とほぼ変わらず、急性腎障害とアセトアミノフェン投与の間の関連性が希薄であることを示しており、APAPが腎臓により安全であることを明らかにしました(図714)

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 さらに新しい日本の報告では241,167人が分析対象となり15)、アセトアミノフェンを服用した患者の年間の1/血清Cr値の傾きは-0.038(-0.182-0.101)に対し、NSAIDsを服用した患者の年間変化は-0.040(-0.187-0.082)で有意に腎機能悪化速度が速いことが明らかになりました。NSAIDsの腎障害が問題になりやすい高齢者を対象とするとやはりアセトアミノフェンよりもNSAIDsの方が有意に腎機能悪化速度が速かったのです(図8)。 これらの変化は腎機能の低い患者間で有意差は認められませんでしたが、アセトアミノフェンは有意に腎機能の低い患者により頻繁に処方された(P<0.001)ことがバイアスになったものではないかと考えられます。さらに加えれば、自殺企図などによるアセトアミノフェンの過量服用はNAPQIの蓄積(19日目の図1参照)によって肝細胞障害だけでなく尿細管障害も引き起こすことがあります16)。25日目にその詳細を記載しようと思いますが、大量飲酒とアセトアミノフェンの過量服用の組み合わせは肝臓だけでなく腎臓にとっても極めて危険です。

そして今日の内容をまとめると
①鎮痛薬腎症は生涯にわたり数kgのアセトアミノフェンを含む鎮痛薬の複合剤のOTC薬を飲み続けた時に起こりえます。
②鎮痛薬腎症はアセトアミノフェンだけではなく、ピリン系鎮痛薬やNSAIDsの合剤を含むものです。アセトアミノフェンやアスピリン単剤では鎮痛薬腎症は起こしません。
③アセトミノフェンはNSAIDではないのですから京都大学の報告のようにAKIを起こしません(図714)。 また倉敷中央病院の報告のようにNSAIDs群に比しアセトアミノフェン群の腎機能低下速度は有意に緩徐です(図815)

 

20211021_8.png だからCKD患者や高齢者にNSAIDsが漫然投与されていれば、アセトアミノフェンに処方変更していただくことが推奨され、Triple whammy処方であれば、患者さんのリスクが高まるため、アセトアミノフェンに処方変更していただかなくて困るのです!

 

引用文献
1) Brix A: Toxicol Pathol 30: 672-674, 2002
2)Elseviers MM, et al: 鎮痛薬とアミノサリチル酸, “臨床家のための腎毒性物質のすべて”, De Broe ME, et al編, シュプリンガー・ジャパン, 東京, 2008, pp214-226, 2008
3)Elseviers MA, De Broe ME: Analgestics and 5-aminosalycilic acid. Clinical Nephrotoxins 3rd ed, P2399-417, SPRINGER-VERLAG, 2008
4) Elseviers MM, De Broe ME: Am J Kidney Dis 28: S48-55, 1996
5) Elseviers MM, De Broe ME: Drug Saf 20: 15-24, 1999
6) Martin U, et al: Eur J Clin Pharmacol 41: 43-46, 1991
7)Mihatsch MJ, et al: Nephrol Dial Transplant 21: 3139-3145, 2006
8)Stewart JH, et al: Br Med J 1:440-443, 1975
9)van der Woude FJ, et al: BMC Nephrol 5: 8-15, 2007
10)Michielsen P, et al: Nephrol Dial Transplant 24: 1253-1259, 2009
11)Rexrode KM, et al: JAMA 286: 315-321, 2001
12)Evans M, et al: Nephrol Dial Transplant 4: 908-1918, 2009
13)Blantz RC: Am J Kidney Dis 28: S3-S6, 1996
14)Hiragi S, et al. Clin Epidemiol. 2018; 10: 265-276
15)Ide K, et al: Int Urol Nephrol 53: 129-135, 2020
16)Bessems JG, et al:Crit Rev Toxicol 31: 55-138, 2001

 



プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)